宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 117, 2011

宇宙航空医学認定医セミナー

「東日本大震災における航空医療の展開」

1. 自衛隊災害派遣·医療活動と航空患者搬送

岩田 雅史

防衛省 統合幕僚監部 首席後方補給官付後方補給官

Japan Self-Defense Force Disaster Relief Mission:Medical activities and aeromedical evacuation

Masashi Iwata

Deputy Director, Logistics(Medical), J-4, Joint Staff, Ministry of Defense

平成23年3月11日午後2時46分,三陸沖を震源とするM9.0の地震が発生した。防衛省は,大規模震災災害派遣命令が18時に,原子力災害派遣命令が19時30分に発出された。今回の特徴としては,観測史上最大規模の震災であったこと,東北から関東地方にかけて4県にまたがる広域災害であったこと,15 m以上の津波が押し寄せたこと,地震災害と原子力災害と2正面となったこと,自衛隊初の統合任務部隊を編成し,総動員数10万人を数えたことなどがあげられる。
 大規模災害時の自衛隊に課せられる任務は,自治体からの要請に基づくものであるが,概ね人命救助(捜索·救難),DMAT輸送,患者広域医療搬送,民生支援物資輸送,および生活支援(給水·入浴),巡回診療である。今回はこの中で,DMATの輸送,広域医療搬送,民生支援における巡回診療について話す。
 自衛隊が保有する航空機には限りがある。そのため,大規模災害が発生した際などには,航空機の競合を回避する目的で,統合輸送統制所が統幕首席後方補給官室に設置される。ここでは,主に固定翼機の輸送統制が行われる。今回,DMATの輸送から患者広域搬送を実施したC-1,C-130輸送機は,この統合輸送統制所にて割り当てられた航空機である。
 DMATの輸送に関しては,3月12日に82チーム384名を花巻空港と霞の目駐屯地へ搬送した。そして,12日から15日の間で,重症患者19名を千歳空港と羽田空港へ,固定翼機によって広域医療搬送を実施した。回転翼機による搬送は,統幕では実績しか把握できなかったが,18日から23日にかけて機能不全に陥った病院の入院患者移送に活動した。また,急性期医療ではないものの,透析患者を被災地外へ搬送する目的で,3月22日,23日に合計82名の患者を松島基地から千歳基地へ広域搬送が行われた。
 民生支援物資の搬送に関しては,概ね3千トンの物資を発災直後から4月21日まで航空機により搬送した。今回の被害状況として,死者が2万人以上に及ぶ大被害にもかかわらず,負傷者が6千人弱で,発災から早い段階で,民生支援物資の搬送のみに移行できたので,1ヶ月足らずで3千トンもの物資を運ぶことができたが,患者が大量に発生していた場合は,難しかったかも知れない。陸上自衛隊は,兵站を確保しつつ行動するために,時には鈍重に映るかも知れないが,一定期間現地に留まって活動するとなると,その能力を遺憾なく発揮する。今回も部隊が展開してから2ヶ月間は入れ替えることなく現地で活動した。民生支援は様々な方面で行われたが,こと医療に関しては,太平洋岸での巡回診療で診察した患者数は,6月10日までで2万3千人以上に達した。これは陸上自衛隊が避難所を回り診療した数と,海上自衛隊が艦艇からヘリコプターで沿岸部をまわり診療した数と,航空自衛隊が松島基地から孤立した島嶼部へヘリコプターを飛ばして巡回診療を行った数の総和である。