宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 116, 2011

宇宙航空医学認定医セミナー

「東日本大震災における航空医療の展開」

緒方 克彦1,藤田 真敬2

1防衛医科大学校 幹事
2防衛医科大学校 防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門

Aeromedical Operation for the Great East Japan Earthquake and Tsunami

Katsuhiko Ogata1, Masanori Fujita2

1Vice President, National Defense Medical College
2Division of Environmental Medicine, National Defense Medical College Research Institute

宇宙航空医学認定医制度は2004年度に開始され,講習会受講を終了して認定医資格を得た学会員医師は延べ120名を超えた。その中には一般の勤務医,開業医に加えて,航空業界産業医,自衛隊航空医官,航空身体検査指定医と,様々な航空医学分野の医師が活躍している。しかし講習会終了後に航空医学の知見に触れる機会が少なく,また一方では航空と医療に関わる問題点やトピックが世に出る機会は増えており,資格取得後の勉強会として毎年学会大会期間中に下記の如く「認定医セミナー」を開催してきた。
 第1回(2007):我が国のドクターヘリの現状と将来像
 第2回(2008):フライト·サージャンの役割と養成
 第3回(2009):航空医療搬送の運用システムに関わる問題点
 第4回(2010):シンポジウム「適性と選抜」
 今回は2011年3月に発生した東日本大震災の際に,様々な形で運用された航空医療搬送をテーマに取り上げた。本震災の対処活動については,1)地上輸送のインフラが壊滅したことや情報の極度の不足により被災地の位置すら判然としないことから航空患者搬送に多くの期待が寄せられた,2)津波災害の特性上,阪神淡路大震災に比し傷病者/死者比が20分の1以下と低く急性期適応が少なかった,その一方で3)孤立した医療機関や避難所または原発避難区域からの患者移送といった想定外の需要が生じた,等の従来計画されてきたDMAT,防災ヘリ,災害派遣などの想定を大きく超えた実態が挙げられた。
 本セミナーでは初めに防衛省から本震災対処活動における自衛隊災害派遣·医療活動の全容,厚生労働省から災害救急医療の概要をご紹介頂き,更に陸上自衛隊ヘリ·CH-47Jによる患者搬送と航空自衛隊·航空機動衛生隊の活動状況,全日本航空から民間航空会社による震災後のサービス提供について御講演を頂いた。災害救急時の医療や情報収集のあり方,孤立した集落からの後送拠点としての花巻モデル,自治体·医療機関·自衛隊の連繋要領の確立,更には関係機関の合同訓練の必要性等,未曾有の広域かつ大規模な災害発生時に真に有効な航空患者搬送について必要な今後の体制作りについて多くの知見を示して頂いた。なお最後に追加発言として,原発事故対処と被ばく医療の概要について陸上自衛隊医官から紹介して頂いた。