宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 2011

公開シンポジウム-2

「社会課題と『きぼう』利用の係わりを知ろう」

5. 宇宙·ロコモ筋トレ研究会の目的と構想


稲葉 智彦1,田中 喜代次2,野口 恵伸3,秋間 広4


1株式会社APTラボ
2筑波大学大学院 人間総合科学研究科
3KYB株式会社
4名古屋大学 総合保健体育センター


Strength training devices for astronauts and prevention of locomotive syndrome


Tomohiko Inaba1, Kiyoji Tanaka2, Eishin Noguchi3, Hiroshi Akima4


1APT Lab. Inc.
2Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba
3KYB Corporation
4Nagoya University Research Center of Health Physical Fitness & Sports


【目的】 本研究会は,「宇宙飛行士の筋機能低下」という問題に対して,油圧抵抗を負荷に用いた,軽量·コンパクトで安全性の高い筋力などの測定機能を備えた筋力トレーニング器具の開発を行っている。さらに,これを本邦の超高齢社会におけるロコモティブシンドロームという問題に対して,筋力などの測定機能が付いたパーソナルな筋力トレーニング器具として用い,ネットワークを利用した健康管理システムの可能性を示す。また,同時に宇宙飛行士による啓発,啓蒙により,ロコモの解決の一助とする。
 【宇宙飛行士と高齢者に共通する課題】 宇宙医学生物学研究においては,「微小重力環境下における宇宙飛行士の筋機能低下」というリスクに対して,「軌道上の新たな運動器具の研究と効果的なトレーニング法の研究」が重要な課題である。一方,超高齢社会を迎えた本邦においては,ロコモという問題に対して,いかに高齢者の筋力を維持·向上させ,要介護化·寝たきりを防ぐかということが重要な課題の一つとなっている。
 ロコモ問題について,日本整形外科学会理事長であった提唱者の中村耕三氏は宇宙飛行士における課題を例に挙げ,運動器の健康には適切なメカニカルストレスが必須であることを述べている。しかしながら同時に,運動器疾患の認識度はさほど高くなく,要介護になることと運動器の健康とが十分に結びついていないことを指摘している。また,どのようにしたら筋力トレーニングを習慣化して継続できるかが重要な課題である。ロコモの問題においては,「認識度の低さ」と「継続可能な筋力トレーニング方法」がキーポイントである。
 【課題解決への提案】
 (1) 宇宙飛行士の新たな筋力トレーニング器具の提案
 提案する器具は油圧抵抗を負荷に用いており,軽量·コンパクトで安全性が高く,また,可動軸の一つが固定されていないことにより可動域内における動作の軌道が自由となるため,上肢,体幹,下肢の筋を動員する多種目の動作が可能なパーソナル筋力トレーニング器具である。これに加えて,測定機能と通信機能を組込んだモデルを開発する。
 (2) 本器具をロコモ対策に応用するための研究,開発
 宇宙飛行士用モデルをロコモ対策モデルに改良する。
 【構想】 宇宙飛行士,および,高齢者は,両者における筋機能低下という問題に対して,提案した筋力トレーニング器具を共通の解決ツールとして用いることによって課題を共有し,ロコモへの認識と筋力トレーニングの継続に共に取り組む。また,宇宙飛行士による啓発,啓蒙活動とテクノロジーにより,高齢者ばかりでなく児童なども参加して同じトレーニングを通して学び,相互に励まし助け合えるようなシステムを構築し,高齢者の健康のみならず孤独などの課題解決の一助とする。