宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 111, 2011

公開シンポジウム-2

「社会課題と『きぼう』利用の係わりを知ろう」

4. ISS滞在型·情報発信ロボットの開発

西嶋 註e

株式会社電通 クリエーティブ開発センター ビジネスデザイン·ラボ

Making a humanoid communication robot for inflatable space stations

Yorichika Nishijima

Business Design Laboratory, Creative Innovation Center, DENTSU INC

国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟に,日本人宇宙飛行士と一緒に滞在することを目指した“コミュニケーションロボット”の開発を2月からスタートさせ,日本経済新聞の全国版1面,またテレビ番組などで紹介されました。これは,JAXAが昨年11月に募集した「きぼう」を利用した社会課題の解決を目指すアイデアに応募して,選ばれた4案の中のひとつです。現在は,フィジビリティ·スタディ期間中(実現可能性などを検討する期間)で,「きぼう」利用フェーズへの移行を認めてもらう為に,東京大学·ロボガレージ·JAXA·電通の4社のプロジェクトメンバーで打ち合わせを行っています。
 主な内容は,国際宇宙ステーションという究極に隔離された空間においての,ロボットのキャラクタ性を活かしたコミュニケーション活動の実施です。他の宇宙ロボットとの大きな違いは「作業」ではなく「コミュニケーション」が目的という点です。その為,人がよりシンパシーを持って会話しやすくなるように,ヒト型ロボットの設計を目指しています。人間側のコミュニケーションを誘発することで,従来のライフログや映像記録にはない “生きたデータ”を収集することが狙いです。
 このロボットには,ある使命を持たせました。それは「単身化社会」でのコミュニケーションレスから発生する問題の緩和です。現在,高齢者だけでなく,生き方の多様化にともない,あらゆる世代において独りで暮らす方が急増しています。このような社会において,ロボットと人間の新しいインターフェースをつくりだすことで,新たな解決への方向性が見出せないだろうかと考えたからです。将来的には,このプロジェクトの結果を活かした「新しいコミュニケーションツール」として一般社会に広がっていくことを願っております。
 開発にあたってデザイン·躯体面では,世界的に有名な東京大学先端科学技術研究センター(以下,東大先端研)の高橋智隆准教授がご担当されています。アメリカTIME誌の表紙を飾ったこともある“クール·ジャパン”なデザイン力をお持ちで,設計から施工までを全て独自の工程で行われます。また心理面においては,同じく東大先端研の中邑賢龍教授と中邑研究室に協力をあおいでおります。ご専門の障害心理学を活かし,ロボットを“コミュニケーションが苦手な個人”と見立てて,どんな会話·どんな動作をしたら,より人に伝わりやすくなるかについて,逐次アドバイスを頂いております。
 そして,私たち電通はコミュニケーションを生業とする会社ですが,その蓄積されたデータ·経験を提供しているだけではありません。プロジェクト内容を説明する為のWEBサイトを制作したり,1年の約半分にあたる日本人宇宙飛行士不在時に,ヒト型ロボットのキャラクター性を用いた情報発信を行い,ISSの重要性を広くアピールすることまで考えています。また,一般企業とのハブ役も務めようとしています。
 最後にJAXAにおかれましては,このプロジェクトを統括して頂いているだけでなく,地上用プロトタイプロボットを,どのように改良したら宇宙ステーションにあげられるかのアドバイスを頂戴したり,長期滞在された宇宙飛行士の方にヒアリングを実施する調整なども今後検討してもらっております。現時点のスケジュールなど,詳しくはぜひhttp://kibo-robo.jp/ でご確認ください。