宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 110, 2011

公開シンポジウム-2

「社会課題と『きぼう』利用の係わりを知ろう」

3. 次世代宇宙ハイセツシステムとその展開について

吉田 哲二1,岸 友三1,浅井 信義2,小林 宏3,所 晃史3,福井 寛4,山崎 義樹5

1シー·エス·ピー·ジャパン株式会社
2愛知県発明協会
3東京理科大学
4福井技術士事務所
5太陽化学株式会社

Advanced space toilet, development and study for its applications

Tetsuji Yoshida1, Tomomi Kishi1, Nobuyoshi Asai2, Hiroshi Kobayashi3, Koushi Tokoro3, Hiroshi Fukui4, Yoshiki Yamazaki5

1CSP-Japan Inc
2Aichi Institute of Invention and Innovation
3Tokyo University of Science
4Fukui Consulting Engineers’ Office
5Taiyo Kagaku Co, Ltd

宇宙航空研究開発機構が平成22年度に実施した「きぼう利用社会課題対応テーマのフィージビリティースタディ提案募集」にて,実施テーマとして選らばれたひとつである「全体位対応の節水型排泄支援装置の開発とその応用」について,テーマ検討と今後の宇宙実験に向けての構想を報告する。前世紀に始まった人類の宇宙への進出により,科学技術ばかりでなく文化や政治さらに生活に至るまで大きな革新がもたらされてきた。初期の有人宇宙飛行や月探探査などでは宇宙飛行士の活躍が喧伝される一方,多大な身体的な辛苦に裏打ちされた歴史であった事は疑う余地もない。その中でも排泄に関係する事項は輝かしい科学技術成果の影に埋没し,飛行士たちの自主努力を一方的に強いる状況が現在でも続いている。近代の国際宇宙ステーション(ISS)では多数の宇宙飛行士が滞在することからプライバシーの維持や,トイレ設備の故障時への対応など改善すべき課題は多い。
 急速な高齢化により世界で前例のない高齢社会となった我が国では,介護における排泄に関する負担増ばかりでなく,効率や経済性の重視から「大人のおむつ」の利用による尊厳の棄損が問題視されている。意識が正常でありながら運動障害があるために排泄処理を自身で行う事が出来ない高齢者は,「大人のおむつ」により大きく尊厳を傷つけられクオリティ·オブ·ライフ(QOL)の著しい低下に生気を殺がれる結果となっている。
 このような実態を鑑み,宇宙では電力などが使えなくなった時に利用する緊急トイレとして,また地上では無重力環境と類似する横臥状態での排泄に適用できるシステムの検討を提案した。技術の核心は人体の排泄器官に密着し,排泄物に飛散させないで格納するシステムとすることである。いわば,排泄器官に人工的な器官を追加した形とし,便やガスの収納ばかりでなく排泄後の肛門や皮膚に付着する残滓の清浄までを排泄装置が実行することにより,手作業なしに排泄を完了できるもとすることが目標である。臭気や排泄に伴う音の拡散を低く抑えることも予測され,プライバシーの維持向上にも有益な効果が期待される。現在,新しいトイレシステム構成要素の地上での実験·実証を進めているが,「きぼう」宇宙実験棟における実験の検討を進めるため宇宙船内の実情把握や宇宙飛行士の排泄の実態調査から着手し,新しいトイレシステムの実用化に向けた実験へ結び付けたいと考えている。