宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 98, 2011

学会シンポジウム

「日本の有人宇宙飛行の過去から将来へ」

2. JAXA宇宙医学研究のあゆみ

大島 博

宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室

JAXA's space medicine activities

Hiroshi Ohshima

Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency

JAXA宇宙医学生物学研究室は,宇宙飛行士の健康を維持しパフォーマンスを向上させるため,健康管理に役立つ臨床医学研究と,モデル生物を利用しメカニズムを解明する基礎医学生物学研究を行っている。宇宙環境を利用して,質の高い研究成果を創出し,その成果を社会に役立てることが期待されている。
 宇宙医学生物学研究は,生理学的対策,精神心理支援,放射線被曝管理,軌道上医療,宇宙船内環境医学の5分野の医学的リスクや最重要課題に対する研究を実施している。個別の研究計画は,科学(有人サポート委員会宇宙医学研究推進分科会),倫理(人間を対象とする研究開発倫理審査委員会,または動物実験委員会),およびプログラム的(有人本部会議で内容·資金·体制を)で審査を受け承認を得てから開始する。宇宙医学のフライト実験は,リスクを軽減する科学的エビデンスに裏付けられた対策案を,地上検証として模擬宇宙環境実験(ベッドレスト,閉鎖,パラボリック,極地など)で有効性と運用妥当性を検証した後,宇宙飛行士を被験者とした軌道上検証を経て,運用に採用されるプロセスで進める。
 地上検証研究として,国際共同ベッドレスト実験(平成13〜14年,MEDES),ロシア長期閉鎖実験(平成9〜10年,IBMP),遠隔データ伝送実験(平成17〜18年,信州大学),南極越冬隊研究(平成20〜23年,昭和基地),パラボリックフライト実験(平成20〜21年,DAS)などを国内外の研究機関と共同で実施した。フライト実験では,スペースシャトル飛行後の骨·筋·免疫影響,ロシアサービスモジュールでのHDTV映像研究(遠隔視診など),受動積算型宇宙放射線計測(PADLES),Biological Dosimeter 研究などを実施した。日本人宇宙飛行士のISS長期滞在開始後は,骨量減少予防研究,心臓自律神経活動研究,身体真菌叢研究,毛髪研究,宇宙日本食のISS長期保存影響,および健康モニターシステム検証などを行っている。さらに,公募選定医学テーマ(ハイブリッドトレーニングなど)を準備支援している。
 基礎研究として,メダカを用いたライブイメージング·遊泳パターン解析·筋萎縮メカニズムの研究と,尾部懸垂ラットを用いた筋萎縮メカニズム·食事療法·免疫障害の研究が行われている。月面開拓医学分野では,月面歩行と転倒予防·月面放射線モニター·月面ダストに関する研究を行っている。
 成果を社会に役立てる活動として,Misson-X(子供に対する食事と運動の啓発)と,宇宙医学に学ぶ健康長寿(高齢者の健康増進啓発)の教育·広報活動を行った。古川フライトでは宇宙医学にチャレンジ(医学映像取得とメカニズム説明)と教育ビデオ撮影(教材コンテンツ)を実施し,JAXAホームページに結果を公開した。