宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 94, 2011

一般演題

44. 水温が仰臥位浸水時の動脈スティフネスに及ぼす影響

斎藤 辰哉1,高原 皓全2,吉岡 哲3,小野寺 昇2

1川崎医療福祉大学大学院
2川崎医療福祉大学
3香川大学

Effects of different water temperatures on arterial stiffness during supine position in water

Tatsuya Saito1, Terumasa Takahara2, Akira Yoshioka3, Sho Onodera2

1Graduate school, Kawasaki University of Medical Welfare
2Kawasaki University of Medical Welfare
3Kagawa University

【背景】 浸水時に生体は,水の物理的特性の影響を受け,陸上とは異なる生理学的反応を示す。水温が中立温度(水温34〜38°C)よりも低い場合には,末梢血管が収縮し,逆に高い場合には末梢血管抵抗が大きく減少する。このことから,水温30°C浸水における動脈スティフネスは,陸上,中立温度および水温が中立温度よりも高い温度と比較して高値を示すものと仮説立てた。本研究は,仰臥位浸水時における水温の違いが動脈スティフネスに及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
 【方法】 被験者は,健康成人男性6名であった。測定条件は水温30°C条件,水温36°C条件,水温40°C条件とした。各条件は,顔面以外の全身仰臥位浸水とした。測定項目は,上腕-足首間脈波伝播速度(brachial-ankle Pulse Wave Velocity:baPWV),心拍数,血圧とした。実験プロトコルは,陸上仰臥位姿勢を15分間保った後,水中で仰臥位姿勢を5分間保った。各条件の測定は,浸水5分後に行った。
 【結果と考察】 水温30°C条件におけるbaPWVは,水温36°C条件,水温40°C条件と比較して,有意に高値を示した(P<0.05)。水温30°C条件における拡張期血圧は,水温36°C条件,水温40°C条件と比較して,有意に高値を示した(P<0.05)。体温よりも低い温度での浸水は,shiveringや肝臓などの臓器での代謝亢進による熱産生増加,皮膚血管の収縮による熱放散の抑制が起こる。体温の恒常性を維持するために皮膚血管収縮が生じたことによって,末梢血管抵抗が増加し,baPWVに影響を及ぼした可能性も考えられた。水温に対する仰臥位浸水時のbaPWV変化は,動脈スティフネスが末梢血管抵抗の影響を受ける可能性を示唆する。