宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 92, 2011

一般演題

42. 水中運動中の妊婦と非妊娠女性の自律神経活動の変化
── 水圧や浮力との関連からの検討 ──

中垣 明美1,2,3,稲見 崇孝3,岩瀬 敏2

1愛知医科大学 看護学部
2愛知医科大学 医学部 生理学講座
3愛知医科大学 運動療育センター

Changes in autonomic activities during maternity swimming as determined by heart rate variability analysis

Akemi Nakagaki1,2,3, Takayuki Inami3, Satoshi Iwase2

1College of Nursing, Aichi Medical University
2The Department of Physiology, School of Medicine, Aichi Medical University
3Institute of Physical Fitness, Sports Medicine and Rehabilitation, Aichi Medical University

【目的】 水圧や浮力の影響をうける妊婦水泳中の心拍数の変化や心拍変動解析による自律神経活動の変化を明らかにし,妊婦と非妊娠成人女性の変化の差を探索すること。 【方法】 対象は妊婦水泳教室に参加する合併症のない妊婦16名と,対照群として非妊娠成人女性11名(以下,非妊婦),研究期間は平成22年9月〜平成23年8月,測定は,被験者に水中用心電テレメーター送信機または水中用ホルター心電図計(FM180:フクダ電子)を装着し,水泳教室中連続して測定した。運動前,中,後における心電図RR間隔を周波数解析ソフト(MemCalc:GMS)により解析し,心拍数,エントロピー,高周波成分(HF)および低周波成分との比(LF/HF)を検討した。比較はプログラムのうち,入水前,入水時,腰かけキック,後歩き,バタ足,クロール,リラックス,水中座禅,呼吸法など11項目について行った。水泳教室前後の変化として,体重,体脂肪率,血圧,脈拍,体温を測定した。【結果】 妊婦と非妊婦の年齢,身長,体重(妊婦は非妊時)に有意差はなかった。妊婦水泳前後における体重,体脂肪率,血圧,脈拍,体温等の変化は両群において有意差はなかった。心拍数は,入水前は妊婦:95.6±12.7回/分,非妊婦: 86.5±8.8回/分で有意差はなかった。キックと後歩きでは有意に妊婦が高く,(キック妊婦:92.9回/分,非妊婦:83.7回/分(p=0.023),後歩き妊婦:93.8回/分,非妊婦:86.6回/分(p=0.034)),バタ足とクロールでは非妊婦が有意に高かった(バタ足妊婦:105.3回/分,非妊婦:117.7回/分(p=0.034),クロール妊婦:115.4回/分,非妊婦:130.2回/分(p=0.038))。心拍数は妊婦は入水前では非妊婦より高いが,運動による上昇は少なかった。ゆらぎの乱雑さを示すエントロピーは水中座禅を除き妊婦の方が低く,キック(p=0.011)と後歩き(p=0.016)では有意差があり,妊婦では自律神経のゆらぎが安定していると考えられた。高周波成分は,水中においては呼吸法を除き妊婦が高く,特に体幹が垂直になる場合において増加を認めた。LF/HFは後歩き,背泳,呼吸法以外で非妊婦の方が高かった。【考察】 妊婦水泳中,妊婦では心拍数やエントロピーの変化が少なく,体幹が垂直になる姿勢において特に高周波成分が高くなった。一般に妊娠中は,循環血液量の増加と共に,ホルモンの影響により,水分を貯留しやすい状況となる。増大子宮による胸郭の解剖学的変化や心臓の位置の転移により,心拍数の増加がおこり,自律神経反応は交感神経,副交感神経とも減弱するが,交感神経が相対的に優位となるとされる。水中運動の影響では,浮力により,姿勢保持や抗重力筋の緊張が緩和され,血液循環が促進するためリラックス効果があるといわれる。また水圧により,間質液の血管内移動や体表面の静脈の還流増加により胸腔内循環血液量が増加し,1回拍出量が増加し,心拍数が減少する。これらのことから,妊婦では,妊娠に伴い循環血液量が増加し,水分の貯留傾向が強くなり,陸上では静脈環流が低下する状況であるため,非妊婦よりも水中において浮力や水圧による影響を受けやすいと考えられた。今後は妊娠週数の違いなどの影響からも検討していきたい。