宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 91, 2011

一般演題

41. 四肢誘導方式生体電気インピーダンス(BI)法を用いた呼吸法判別について

西村 るみ子1,増尾 善久2,清水 祐樹1,桑原 裕子1,岩瀬 敏1

1愛知医科大学 医学部 生理学講座
2早稲田大学 スポーツ科学研究センター

Evaluation of discrimination in the breathing patterns using by four limb-lead combinations bioelectrical impedance analysis (BIA) and sex differences

Rumiko Nishimura1, Yoshihisa Masuo2, Yuuki Shimizu1, Yuko Kuwahara1, Satoshi Iwase1

1Department of Physiology, Aichi Medical University School of Medcine
2Sport Science Research Center, Waseda University

【目的】 呼吸活動は胸部·腹部呼吸筋活動の違いにより胸式呼吸と腹式呼吸に大別される。本研究は,骨格筋挙動の捕捉性及び簡便性に優れた四肢誘導方式インピーダンス(BI)法を用いて,体幹胸上部と中下部の呼吸によるBI変化を分離計測し,胸式·腹式呼吸法判別情報としての有用性を評価することを目的とした。
 【方法】 19歳から76歳の健康な男女各30名を被験者とした。胸式·腹式呼吸法判別の基準には,胸部と腹部の呼吸変化が分離計測できる呼吸インダクタンス式プレチスモグラフィー(RIP)を用い,意識下でRIP測定の信頼性向上のために電子式スパイログラム(ESG)を併用した。被験者にはESGとRIPを用いて呼吸指導を行った後,呼吸変化に連動した胸式·腹式の統制呼吸を行わせた。呼吸情報は,ESGより換気量変化(ΔTV)を,RIPより胸部·腹部の周径囲変化(ΔVrc,ΔVab)を,BI法より体幹胸上部と中下部のBI変化(ΔZch,ΔZtr)を各々頂点間値で測定した。RIPによる胸部·腹部の周径囲変化の比(ΔVrc/ΔVab)を用いて,ΔVrc/ΔVab>1を胸式呼吸,ΔVrc/ΔVab<1を腹式呼吸とし,呼吸法判別基準とした。この判別基準を用いてBI法を評価するために,RIP比(ΔVrc/ΔVab)とそれに対応するBI比(ΔZtr/ΔZch)間の相関性と性差に付いて検討した。また,換気量変化(ΔTV)とΔZch,ΔZtr,ΔVrc,ΔVabとの関係も合わせて確認した。
 【結果】 BI比(ΔZtr/ΔZch)とRIP比(ΔVrc/ΔVab)間に有意な相関(r=0.808,p<0.01)が認められた。また,同関係において性差(p<0.05)が認められ,女性側の回帰係数が高値を示した。換気量変化と各パラメータとの関係でも,ΔTVとΔZchp<0.01),ΔZtrp<0.05),ΔVrcp<0.05)の間に有意な性差を認め,何れも女性側の回帰係数で高値を示した。
 【考察】 BI比(ΔZtr/ΔZch)とRIP比(ΔVrc/ΔVab)間に有意な相関が認められ,有用な検量線が得られたことから,簡便性に優れた四肢誘導方式BI法のみで,腹式·胸式呼吸法の判別を可能とすることが示唆された。また,単位換気量あたりのBI変化は,体幹胸上部(ΔZch)および中下部(ΔZtr)何れも女性側で高く,特に体幹胸上部(ΔZch)側でBI比の性差を特徴付けていた。同様に単位換気量あたりのRIPの変化は,胸部(ΔVrc)のみにおいて,女性側で高値を示した。Bellmareら(2003)は「体軸方向に対する肋骨の傾きは男性より女性の方が大きく,そのため女性は胸郭容積を拡大しやすい」と報告しているが,今回の結果はこの報告に合致しており,単位換気量あたりの胸腔拡張変化は男性より女性の方が大きいという,呼吸運動における性差が反映されたものと考えられる。このことから,BI比(ΔZtr/ΔZch)とRIP比(ΔVrc/ΔVab)間に認められた性差は,女性の呼吸時の胸腔拡張性が男性に比して大きいことが一因となってあらわれたものと推察される。