宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 90, 2011

一般演題

40. 暑熱下での片側顔面紅潮とその対側の無汗(harlequin症候群)を呈した小児例

犬飼 洋子,岩瀬 敏,西村 直記,桑原 裕子,菅屋 潤壹

愛知医科大学 生理学講座

Hemifacial flushing and contralateral anhidrosis by heating in children

Yoko Inukai, Satoshi Iwase, Naoki Nishimura, Yuko Kuwahara, Junichi Sugenoya

Department of Physiology, Aichi Medical University

【はじめに】 暑熱下において,片側の顔面が紅潮し,対側の無汗が認められることがある。この場合,無汗を呈した側が障害側であり,また顔面半側紅潮が道化師の衣装柄のようであるためharlequin syndrome(まだら模様症候群)と称される。本症を呈した3小児例の,病因および治療戦略について検討した。
 【症例】 症例1(1歳9か月男児)は入浴時に顔面右半分の紅潮を指摘されたが,生後3か月に左上肢の皮膚が冷たく,9か月で夏季に発汗が右顔面〜右上半身のみであることを気づかれていた。症例2(2歳1か月男児)も入浴時に右顔面紅潮を認め,手の温度は右側がより温かく,左顔面〜左頸部〜左上肢〜背中が無汗で,背中のそれ以下の部位での発汗は左半分だけであることに気づかれた。症例3(9歳男児)は運動後に顔面左側のみの火照り,紅潮と発汗過多を8歳時の秋に自覚し,翌年夏に再び症状がはっきりした。また右ホルネル症候群を伴っていた。
 【方法】 全症例において暑熱環境下での,@ 発汗異常の分布をミノール法による発汗試験で,A 皮膚温分布をサーモグラフィーで,B 皮膚血流量をレーザードップラー法で測定した。
 【結果】 3例とも,顔面紅潮側と対側の顔面から頸部にかけての無汗と,それ以下のレベルでの交叉性の発汗低下を認めた。同時測定した皮膚温分布は,無汗部で高値を示し,皮膚血流量は,無汗側上半身で低値であった。
 【考察】 障害部位は無汗側の頸部交感神経節前線維であると推察した。発汗分布が障害レベルを境に交叉性であるのは,無汗レベルではその対側の,それ以下のレベルでは同側(障害側)の代償性発汗亢進と思われる。
 【結論】 暑熱時の顔面半側紅潮では,障害側はその対側である無汗側であり,原因精査のためには無汗側の損傷部位検索が必要である。3例とも正常分娩で,外傷などの既往歴もなく,頸部の核磁気共鳴画像では異常はないが,分娩時に頸部の過伸展があった可能性が示唆された。