宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 89, 2011

一般演題

39. 随意的筋収縮と誘発性筋収縮に伴う皮膚交感神経活動:発汗神経活動と血管収縮神経活動

桑原 裕子1,岩瀬 敏1,西村 直記1,菅屋 潤壹1,2

1愛知医科大学 生理学講座
2椙山女学園大学

Skin sympathetic traffic evoked by voluntary muscle contraction and electrical stimulation

Yuko Kuwahara1, Satoshi Iwase1, Naoki Nishimura1, Junichi Sugenoya1,2

1Department of Physiology, Aichi Medical University
2Sugiyama Jyogakuen University

【目的】 中枢性運動指令による随意的筋収縮と電気刺激による誘発性筋収縮に伴って発現する皮膚交感神経活動(SSNA)の成分である発汗神経活動(SM)と血管収縮神経活動(VC)が関連する高次脳機能を調べるため、 同時に記録された運動関連脳電位(MRCP)と体性感覚誘発電位(SEP)をそれぞれ解析し,随意的筋収縮時と誘発性筋収縮時に皮膚へ発現する SM と VC を賦活化する因子について比較し,予測制御の観点より考察する。
 【方法】 被験者は神経疾患に既往歴のない健康な成人男性10名(年齢:22±3歳)を対象とした。実験前に愛知医科大学医学部倫理委員会の承認と被験者からは説明に基づく承諾を得た。随意的筋収縮および正中神経への電気刺激は順応を生じないように,20〜30 秒間隔の不定期的な30 試行を3回,合計約90 回試行した。試行中の呼吸は常に安静呼吸であった。SSNAは膝窩の脛骨神経からタングステン微小電極を用いてマイクロニューログラフィにより記録し,SMの効果器反応であり,皮膚電位変化である交感神経皮膚反応(SSR)とVCの効果器反応である皮膚血流(SBF)はレーザードップラ法により脛骨神経の支配域である足底よりそれぞれ記録した。高次脳機能の指標であるMRCPとSEPを解析するために,脳波は国際10−20 電極配置法により眼球運動とともに記録し,眼球運動のある試行は解析より除外した。また,筋電図は前腕屈筋群より表面電極にて記録した。
 【結果】 マルチユニットなSSNAは随意的筋収縮や正中神経への電気刺激による誘発性筋収縮により発現するが,成分であるSMはVCよりSSNAと出力の相関が高く,より優位な活動であることが判明した。また,効果器反応のSSRやSBFは常に発現するのではなく,一方のみ発生する試行もあり,反応の大きさは試行毎に異なっていた。そこで、効果器反応の大きさによりSMが優位であるSSNA(SM+)と非優位であるSSNA(SM−)および(VC)優位の SSNA(VC+)と非優位のSSNA(VC−)にそれぞれ2群化し,MRCPあるいはSEPとの間の関連を比較検定した。随意的筋収縮に伴うSMは運動電位(MP),VCは運動準備電位後期成分(NS’)と MPにそれぞれ有意差(p<0.05)がみられた。また,電気刺激による誘発性筋収縮に伴う SM は認知電位(P300a)に有意差(p<0.01),VC は体性感覚電位(N60)と認知電位(Vertex P.)に有意差(p<0.05)がみられた。
 【結論】 随意的筋収縮に伴って発現するSSNAの成分であるSMとVCは“中枢性運動指令”による意識の賦活化反応(覚醒反応)で,運動のための滑り止めや体温調節および活動筋への血流分配として機能する予測制御である。一方,正中神経への電気刺激による誘発性筋収縮に伴うSMは体性感覚の認知,VCは体性感覚による意識の賦活化反応(覚醒反応)であるとともに血流の分配を行い,体性感覚刺激に対する防御反応として環境からの外乱に対する予測制御であると考えられる。