宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 88, 2011

一般演題

38. エアコンから発生する(−)帯電微細水分粒子による皮膚の潤い効果における季節差の影響

大野 秀夫,西村 直記,岩瀬 敏,菅屋 潤壹

愛知医科大学

Seasonal effects of ionized water vapor on skin moisture conditions in air conditioned room

Hideo Ohno, Naoki Nishimura, Satoshi Iwase, Junichi Sugenoya

Aichi Medical University

【はじめに】 エアコン使用時のオフィスや住宅,機内などでは皮膚乾燥が話題になる。筆者らは35〜45歳の閉経前の健常成人女性を対象に人工気候室内(室温24°C,相対湿度35%)で2時間滞在させた際に,エアコンから発生する(−)帯電微細水分粒子(以降,ミストと称する)が在室者の皮膚の潤いと“張り”に及ぼす効果について2008年5月,2009年3月,2010年6月,2011年2月に実験を実施した。被験者数は各実験15から20名である。今回,ミストの効果を季節間で比較した結果について報告する。実験は本学倫理委員会の承認を得ている。
 【実験プロトコル·測定パラメーター】 被験者は実験開始30分前に到着し実験室でスウエット上下に着替え後,実験を開始した。被験者はミスト発生なし条件で60分間滞在後,ミスト発生あり(ミスト群)あるいはミスト発生なし(コントロール群)のいずれかの条件下でさらに120分間,計180分間滞在した。実験開始後60分経過時点で前額·外眼角·頬における皮膚コンダクタンス(Skicon-200EX,IBS社)および吸引法による総皮膚変位量(即時変位量と遅延変位量の和)と戻り量(Cutometer MPA580,Courage and Khazaka社)を測定し初期値とした。その後30分毎に計5回測定した。皮膚コンダクタンスは角質層の水分量を,総皮膚変位量は皮膚表面の軟らかさを,そして即時戻り率(%)(=即時戻り量/総皮膚変位量×100)は皮膚の弾性要素との関連を示す指標として美容皮膚科学領域で用いられている。
 【結果及び考察】
 皮膚コンダクタンス:ミスト効果は角質層の薄い外眼角で4期とも明瞭であリ,ミストが角質層まで浸透していると思われる。コントロール群は時間とともに低下したが,ミスト群は2月を除いて初期値維持あるいは上昇傾向を示した。2月はミスト群もコントロール群より高いレベルにはあるが,わずかに低下傾向を示した。2月のミスト群における初期値からの低下は頬では明瞭であり,角質層の厚い頬では冬季の皮膚潤いはミストだけでは不十分であり,保湿剤の使用が必要と思われる。
 総皮膚変位量:角質層の厚い前額及び頬ではミストの効果が有意に見られ,表面が軟化していることがわかる。外眼角はコントロール群でも変位量が多いため,ミスト効果があらわれにくいと思われる。
 即時戻り率:ミスト効果は総変位量同様な傾向で見られた。総変位量の結果と合わせると,頬や前額ではミストが角質層内まで浸透し難いため,皮膚表面で皮脂とエマルジョン化して表面を軟化させる効果があり,その効果は弾性要素(戻り率)へも寄与していると考えられる。
 【今後の課題】 皮膚保湿成分(皮脂分泌,ムコ多糖類など)の部位差と季節差について検討するとともに,微細水分粒子の表皮浸透モデルを生理的に解釈していく予定である。