35.　可変重力と心循環調節変化の量影響関係 | The relationship between widespread changes of gravity and circulatory regulation

一般演題

35.　可変重力と心循環調節変化の量影響関係

小川　洋二郎¹，青木　健¹，柳田　亮¹，曷川　元¹，篠島　亜里^1,2，斉藤　崇史¹，大屋　直子¹，岩﨑　賢一¹

¹日本大学　医学部　社会医学系　衛生学分野
²日本大学　医学部　視覚科学系　眼科学分野

The relationship between widespread changes of gravity and circulatory regulation

Yojiro Ogawa¹, Ken Aoki¹, Ryo Yanagida¹, Hajime Katsukawa¹, Ari Shinojima^1,2, Takashi Saito¹, Naoko Oya¹, Ken-ichi Iwasaki¹

¹Division of Hygiene, Department of Social Medicine, Nihon University School of Medicine
²Division of Ophthalmology, Department of Visual Sciences, Nihon University School of Medicine

ヒトは，日常生活を送る上で，様々な重力や加速度を受けている。中でも，頭から足方向へのZ軸への重力は，起立耐性低下や脳貧血との関わりが深く，循環系に与える影響が比較的大きいと予想される。Z軸方向への重力負荷が生体に及ぼす影響として，血液分布や静脈還流量の変化が挙げられる。例えば，立位での1 Gzと比較して，2倍の重力がかかった場合，血液は下半身により停滞し，心臓へ戻る血液量すなわち静脈還流量は低下する。反対に，仰臥位となりZ軸方向に重力負荷がない場合では，立位と比較し，血液分布は上半身へシフトし，静脈還流量も増加すると考えられる。このような血行動態の変化を生じるZ軸方向への重力負荷の変化は，心循環調節機能にも影響を及ぼすと考えられる。
　そこで本研究では，頭から下肢方向への重力:Gzを，0, 0.5, 1, 1.5, 2 Gzの5強度で負荷し，この可変重力が心循環調節に与える基礎生理学的な影響を検討することを目的とした。
　健康成人男性11名を対象とし，心電図，非観血的連続血圧計，カプノメーター等を装着し，心電図波形，動脈圧波形，カプノグラムを記録した。可変重力負荷に関して，0 Gz，0.5 Gz，1 Gz負荷はティルトベッドの角度調節（0度，30度，90度）により，1 Gz，1.5 Gz，2 Gz負荷は遠心人工重力装置（半径1.7 m）の回転数調節（回転前，24回転/分，30回転/分）により負荷を行った。各Gz負荷で，21分間安静にし，最後の6分間を実験データとして解析した。記録した各波形から，一心拍ごとの収縮期血圧とR-R間隔を求め，その自発変動波形に周波数解析を施し，自律神経活動を評価した。さらに，伝達関数解析およびシークエンス解析を用い，血圧変動と心拍変動の関係から動脈圧受容器心臓反射機能を評価した。
　収縮期血圧は，重力強度に対して有意な変化を認めなかったが，心拍数は重力強度依存性に増加した。自律神経活動の指標である血管運動性交感神経活動は重力強度依存性に増加し，一方，心臓副交感神経活動は1 Gz以上で重力強度依存性に低下した。さらに，二つの解析法で求めた動脈圧受容器心臓反射機能は，共に1 Gz以上で重力強度依存性に低下した。
　重力負荷による心循環反応に関して，Gz負荷強度が増すに連れて静脈還流量は低下する。この低下に対する生体反応は，心拍数増加の結果から，分時心拍出量の維持により血圧を維持した経路と，血管運動性交感神経活動増加の結果から，血管収縮により血圧を維持した経路が考えられた。また，重力負荷と心循環系の量影響関係において，収縮期血圧は0から2 Gzの重力強度に依存性はなく，心拍数および血管運動性交感神経活動は重力強度と直線性の関連が示唆された。一方，動脈圧受容器心臓反射機能と心臓副交感神経活動に関しては，0から2 Gzの重力負荷と複雑な量影響関係が示唆されたが，1から2 Gzの過重力の範囲では直線性の相関を有すると考えられた。このように可変的な重力負荷に対してヒトの心循環系の生体反応は，様々な量影響関係を有する可能性が示唆された。
　本研究は上原記念生命科学財団の助成により行われた。