宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 81, 2011

一般演題

31. 筋細胞膜修復タンパクの発現に及ぼす後肢懸垂とその後の再荷重の影響

大野 善隆1,後藤 勝正2,杉浦 崇夫3,大平 充宣4,吉岡 利忠5

1豊橋創造大学 保健医療学部
2豊橋創造大学大学院 健康科学研究科
3山口大学 教育学部
4大阪大学大学院 医学系研究科
5弘前学院大学

Changes in membrane-repairing protein of mouse soleus muscle during unloading and reloading

Yoshitaka Ohno1, Katsumasa Goto2, Takao Sugiura3, Yoshinobu Ohira4, Toshitada Yoshioka5

1Laboratory of Physiology, School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2Department of Physiology, Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
3Faculty of Education, Yamaguchi University
4Graduate School of Medicine, Osaka University
5Hirosaki Gakuin University

筋衛星細胞は骨格筋の可塑性発現において重要な役割を果たしている。萎縮した骨格筋の再成長や損傷した骨格筋の再生時に,筋衛星細胞は増殖した後に筋細胞に融合したり,新たに筋細胞を形成したりすると考えられている。この融合に際しては,筋衛星細胞と筋細胞,あるいは筋衛星細胞同士の細胞膜の融合が必要となる。損傷した筋細胞膜の修復ならびに筋芽細胞の融合にはtripartite motif-containing 72(Trim72)が主要な役割を演じていることが報告されている。しかし,骨格筋量の変化に伴うTrim72の役割は明らかでない。そこで本研究では,骨格筋の萎縮とその後の再成長に伴うTrim72の発現量の変化を検討した。実験はすべて豊橋創造大学が定める動物実験規定に基づき,豊橋創造大学生命倫理委員会の承認許可を得て行った。実験には生後11週齢の雄性マウス(C57BL/6J)30匹を用い,ヒラメ筋を対象筋とした。マウスに対して2週間の後肢懸垂によりヒラメ筋への荷重を除去した後,通常飼育に戻し再荷重を負荷した。なお,後肢懸垂中マウスは自由に餌および水を摂取できるように配慮した。後肢懸垂前ならびに懸垂後に経時的にマウス両後肢よりヒラメ筋を摘出し,即座に結合組織を除去した後,筋湿重量,筋乾燥重量,筋水分量を測定した。筋重量測定後,筋組織の一部をホモジネートし,タンパク量を測定した。さらに,Western blot法により,Trim72の発現量,Aktの発現量ならびにリン酸化レベルを評価した。また,筋組織より全RNAを抽出·精製し,cDNAに逆転写した。リアルタイムRT-PCR法により,Trim72ならびにMyod1のmRNA発現量を測定した。後肢懸垂による筋活動の抑制はヒラメ筋の筋湿重量,筋乾燥重量,タンパク量を減少させ,Trim72の発現量の低下はmRNAおよびタンパクレベルで確認された。また,萎縮筋におけるAktリン酸化レベル,Myod1 mRNA発現量も減少した。一方,後肢懸垂後の再荷重により,筋重量ならびにTrim72 mRNAの発現が増加した。Trim72タンパクは再荷重に伴い徐々に増加した。この増加に先行して,再荷重早期にAktリン酸化レベルおよびMyod1 mRNA発現量の増加が認められた。したがって,萎縮筋の再成長時において筋細胞膜修復機構が活性化することが示唆された。また,萎縮筋の再成長に伴うTrim72発現は,AktあるいはMyoDによる制御が関与しているかもしれない。本研究の一部は科学研究費補助金(若手B,23700647;基盤B,20300218;基盤A,22240071;基盤S,19100009)ならびに日本私立学校振興·共済事業団による学術振興資金の助成を受けて実施された。