宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 80, 2011

一般演題

30. 骨格筋の量的変化に伴うアディポネクチン受容体発現量の応答

後藤 亜由美1,大野 善隆2,杉浦 崇夫3,大平 充宣4,吉岡 利忠5,後藤 勝正1

1豊橋創造大学大学院 健康科学研究科
2豊橋創造大学 保健医療学部
3山口大学 教育学部
4大阪大学大学院 医学系研究科
5弘前学院大学

Changes in adiponectin receptor during recovery of atrophied soleus muscle induced by gravitational unloading

Ayumi Goto1, Yoshitaka Ohno2, Takao Sugiura3, Yoshinobu Ohira4, Toshitada Yoshioka5, Katsumasa Goto1

1Department of Physiology, Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2Laboratory of Physiology, School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
3Faculty of Education, Yamaguchi University
4Graduate School of Medicine, Osaka University
5Hirosaki Gakuin University

無重量環境への曝露や長期臥床による不活動は筋活動量を減少させ,骨格筋萎縮を誘発する。こうした筋活動量の減少は基礎代謝量を減少させ,糖脂質代謝を抑制する。したがって,筋活動量の減少はメタボリックシンドローム発症要因の1つである。メタボリックシンドロームの発症基盤には,脂肪細胞から分泌されるアディポカインの1つであるアディポネクチンの分泌異常が挙げられている。循環血液中のアディポネクチンは標的細胞の膜表面に存在するアディポネクチン受容体と結合し,糖脂質代謝を亢進する。このアディポネクチン受容体の発現低下は動脈硬化やインスリン感受性低下に作用し,糖尿病などの疾患を引き起こす。我々は,骨格筋組織にアディポネクチンが発現していることを見出した。さらにヒラメ筋の共同筋腱を切除し,代償性肥大を惹起させたヒラメ筋においてアディポネクチンおよびアディポネクチン受容体の発現が増加したことを確認した。しかしながら骨格筋萎縮およびその後の再成長における骨格筋組織内アディポネクチン受容体の発現は明らかではない。また身体活動量の変化に伴う血中アディポネクチン濃度に関しても不明な点が多く残されている。そこで本研究では,骨格筋の萎縮とその後の再成長が骨格筋におけるアディポネクチン受容体発現量に及ぼす影響を検討した。また,血液中アディポネクチン濃度についてもあわせて検討した。本研究は,豊橋創造大学が定める動物実験規定に基づき,豊橋創造大学生命倫理委員会の審査·承認を経て実施された。実験には生後11週齢の雄性マウス(C57BL/6J)のヒラメ筋を用いた。マウスに後肢懸垂を2週間負荷することでヒラメ筋に対する荷重を除去し,その後通常飼育に戻した。全てのマウスは気温23±1°C,明暗サイクル12時間の環境下で飼育された。なお,餌および水は自由摂取とした。経時的に採血ならびに両後肢のヒラメ筋を摘出し,即座に結合組織を除去した後,筋湿重量を測定した。筋湿重量測定後,液体窒素を用いて急速凍結し,−80°Cで保存した。ウエスタンブロッティング法によりアディポネクチン発現量,リアルタイムRT-PCR法によりアディポネクチン受容体のmRNA発現量を,ELISA法により血中アディポネクチン濃度を測定·評価した。2週間の後肢懸垂による荷重除去は,ヒラメ筋の筋湿重量を有意に減少させた。この筋萎縮に伴い,骨格筋組織内アディポネクチン受容体1の発現量が減少した。さらに,懸垂解除後の通常飼育により萎縮したヒラメ筋の筋湿重量は有意に増加し,骨格筋の再成長が認められた。この再成長に伴い,骨格筋組織内のアディポネクチンおよびアディポネクチン受容体1の発現量は増加した。一方,骨格筋萎縮およびその後の再成長の過程における血中アディポネクチン濃度に有意な変化は認められなかった。以上の結果より,廃用性に萎縮した骨格筋の再成長すなわち骨格筋量の増加は,骨格筋組織内のアディポネクチンおよびアディポネクチン受容体の発現を増加させることが明らかとなった。したがって,萎縮骨格筋の再成長時は糖脂質代謝が亢進していることが示唆された。