宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 79, 2011

一般演題

29. フルバスタチンの血管平滑筋細胞におけるエンドセリン-1低酸素依存性発現誘導の抑制

久田 哲也1,緒方 克彦2,櫻井 裕1

1防衛医科大学校 衛生学公衆衛生学講座
2防衛医科大学校 幹事

Fluvastatin inhibits hypoxia-induced ET-1 expression in vascular smooth muscle cells

Tetsuya Hisada1, Katsuhiko Ogata2, Yutaka Sakurai1

1Department of Preventive Medicine and Public Health, National Defense Medical College
2Vice President, National Defense Medical College

エンドセリン-1(ET-1)は,血管収縮等の細胞作用を介した心血管疾患の増悪因子で,転写因子HIF-1により発現誘導される。高脂血症治療薬HMG-CoA還元酵素阻害剤は,過去の報告で動脈硬化病変の血管平滑筋細胞(VSMC)が多く分布する血管中膜においてHIF-1α依存性遺伝子発現に影響を与える可能性が示唆されてきたことから,我々はHMG-CoA還元酵素阻害剤フルバスタチンのVSMCにおけるHIF-1依存性のET-1発現誘導に及ぼす影響を検証した。VSMCにおいてフルバスタチンは,低酸素(1%酸素濃度)におけるpreproET-1 mRNA及びタンパク発現·分泌誘導を抑制した。このような現象を引き起こす機構としてフルバスタチンのHIF-1依存性のET-1発現に及ぼす影響を考えて検証を進めたところ,フルバスタチンはHIF-1αの発現をmRNAレベルでは有意な変化を起こさなかったが,HIF-1αタンパク発現を低下させた。フルバスタチンによるこのHIF-1αタンパク発現を低下は,塩化コバルトの添加やHIF-1αの酸素依存性のタンパク代謝に重要な402位と564位の2つのプロリンをアラニンに置換した変異体を用いた検証では認められなかったことから,フルバスタチンがHIF-1αの酸素依存性のポリユビキチン化を介したタンパク代謝を促進する可能性を考えた。そこで,プロテアーゼ阻害剤MG-132存在下で処理した細胞抽出液とHIF-1α抗体を用いた免疫沈降及びユビキチン抗体によるイムノブロットによる検証を行ったところ,フルバスタチンはHIF-1αタンパクのポリユビキチン化を促進させた。結論として本研究では,フルバスタチンが低酸素曝露で増加するHIF-1αタンパク発現をポリユビキチン化によるタンパク分解を促進して低下させ,ET-1の低酸素依存性発現誘導を抑制する可能性が示唆された。