宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 77, 2011

一般演題

27. 減圧環境下での薬剤投与に向けたディスポーザブル携帯型持続注入器の有効性評価

塚田 修1,2,仲佐 昭彦2,宇佐美 久尚3

1医療法人慈修会 上田腎臓クリニック
2株式会社塚田メディカル·リサーチ
3信州大学 繊維学部 化学·材料系 材料化学工学課程

Evaluation of disposable infusion pomp under a decompression environment

Osamu Tsukada1,2, Akihiko Nakasa2, Hisanao Usami3

1Ueda Kidney Clinic
2Tsukada Medical Research Co. Ltd.
3Shinshu University

【目的】 医療現場における薬剤投与は,点滴,輸液ポンプ,シリンジポンプ等,各医療現場に適した医療機器が使用されている。しかし,1995年に泰川らが報告したように,微小重力空間での薬剤投与には,気圧,重力,電力供給,振動,重量等の課題があり,これらの医療機器は,微小重力空間での長期滞在には適していないと思われる。そこで,重力,加速度,振動等の影響を受けづらく,電力を必要としないディスポーザブル携帯型持続注入器の減圧環境下での薬剤投与に対する有効性を評価した。
 【実験方法】 本研究では,(株)ディヴインターナショナル製DIB-PCAシステム:OD-820W(規定流速:4 mL/hr(25°C)),ならびにテルモ(株)製リニアフューザーDIB(C):LD-CH1027(規定流速:2.7 mL/h(25°C))を用いて,旅客機での使用を想定した減圧下と大気下での流量特性の比較評価を行った。なお,生理食塩水(テルモ(株)製)をOD-820Wには160 mL,LD-CH1027には80 mL充填し,流量試験を行った。減圧環境は,排気ポンプによって減圧し,グローブボックス内の気圧を差圧計(山本計器製造製)により確認した。流量試験は,電子天秤(AND社製CX-2000)を用いて,10分毎の重量変化より確認した。また,グローブボックス内の温度および湿度は,デジタル湿度計/内外温度計(EMPEX 社製 デジコンフォII TD-8172)を用いて10分毎に測定した。
 【結果】 まず初めに,LD-CH1027を用いて,0.8気圧下での流量試験を行った。試験途中,一度,大気下に戻し,再度,減圧環境に戻したが,流量,温度には大きな変化は見られなかった。そして,同ロット品を用いて,上記検証と同温度に設定された恒温槽内で,大気下での流量試験結果と比較したところ,ほぼ同じ流量変化が確認された。そこで,0.6気圧まで減圧し,LD-CH1027およびOD-820Wについて流量試験を行った(N数:3)。その結果,LD-CH1027の平均流量差は,それぞれ0.06(N1),0.14(N2),0.27 mL/h(N3),OD-820Wの平均流量差は,0.15(N1),0.15(N2),0.23 mL/h(N3)であった。
 【考察】 一般的に,ディスポーザブル携帯型持続注入器の流量は,温度,湿度,薬液の動粘度に影響を受けることが知られているが,上記の結果より気圧変化に対して,大きな影響を受けることはないことが示唆された。ただし,上記N3の結果は,他のN1およびN2と比較して流量差が大きくなっているが,これは温度変化または湿度変化等,測定環境の影響によるものではないかと考えている。
 【まとめ】 本研究結果より,航空旅客機での使用(減圧環境下での使用)に,ディスポーザブル携帯型持続注入器は大きな影響を受けることなく,使用できることが示唆された。今後は,更に実使用を考慮した検証を行い,様々な環境においても安心して使用できように研究を進めて行きたいと考えている。