宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 75, 2011

一般演題

25. 空港クリニックにおける最近5年間の外国人旅行者·疾患動向

村越 秀光,浅野 悦洋,岩瀬 龍之,赤沼 雅彦

日本医科大学 成田国際空港クリニック

Five year trend in diseases contracted by Non-Japanese travelers of Airport clinic

Hidemitsu Murakoshi, Yoshihiro Asano, Tatsuyuki Iwase, Masahiko Akanuma

Nippon Medical School Narita International Airport Clinic

【緒言】 日本医科大学成田国際空港クリニックは ’06年4月から ’11年3月までの5年間で70,177名の外来患者に対応した。このうち,空港クリニックを受診した外国人患者は総数6,412(9.1%)で旅行者2,762(43.1%),航空機乗務員2,640(41.2%),空港勤務者586(9.1%),その他424(6.6%)であった。今回,旅行者について検討した。
 【研究対象】 外国人旅行者の症例総数は2,762例(3.9%)で,入国者1,482例(53.7%),出国者1,280例(46.3%),救急症例656例(23.8%)であった。
 【結果】 疾病別にみると消化管疾患が684(24.8%)で最も多く,次いで呼吸器疾患が446(16.1%),外傷364(13.2%),肝腎疾患166(6.0%),循環器疾患120(4.3%),感染症52(1.9%),代謝異常41(1.5%),脳血管障害32(1.2%),血管疾患26(0.9%),急性中毒18(0.7%),消化管出血3例(0.1%),その他810(29.3%)であった。男女別では女性1,273例(46.0%),男性1,489例(54.0%)で中等症以上が多く(男性231例,女性168例),うち重篤例が7例で女性はゼロであった。疾患別分類で,入国者,出国者の比較では,出国者で外傷,循環器疾患,感染症,代謝異常,血管疾患,急性中毒,消化管出血が多く,入国者で消化管疾患,呼吸器疾患,肝腎疾患,脳血管障害,その他では麻薬飲み込み疑い例が多かった。年代別では,20歳代516(18.7%),30歳代561(20.3%),40歳代465(16.8%),50歳代393(14.2%),60歳代229(8.3%)が多く見受けられたが,10歳以下225(9.2%)も多かった。出発地域では南北アメリカからの旅行者が最も多く,次いで東南アジア,東アジア,欧州と中近東,オセアニア,アフリカの順であった。また多くは消化管疾患,呼吸器疾患,外傷であった。救急患者でみると急性腹症が最も多く220(33.5%),次いで外傷82(12.5%),呼吸器疾患56(8.5%),循環器疾患50(7.8%),肝腎疾患32(4.9%),脳血管障害21(3.2%),代謝異常14(2.1%),血管疾患9例(1,4%),急性中毒8(1.2%),感染症6(1.0%),消化管出血1(0.2%),その他157(23.9%)であった。出発地域では東南アジアが多く,次いで南北アメリカ,東アジア,欧州と中近東,オセアニアの順になったが,出国者(帰国者)が最も多かった。
 【考察】 重篤(死亡)例は来院時死亡5例,急性腹症1例,もう1例は当初インフルエンザ脳症が疑われたが麻薬飲み込み例であった。空港クリニックにおいて外国人受診者では旅行者が最も多く,次いで航空機乗務員であった。さまざまな国からの旅行者,さまざまな疾患に対応するより良い医療サービスの提供が空港クリニックの使命だと考える。