宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 71, 2011

一般演題

21. 運転者の身体と視野の振動の大きさが乗り心地に及ぼす影響

本間 秀典,奥田 翔,小澤 惇一,井須 尚紀

三重大学大学院 工学研究科

Influence of magnitudes of driver’s body and vision vibration on riding confort

Hidenori Homma, Sho Okuda, Jun’ichi Ozawa, Naoki Isu

Graduate School of Engineering, Mie University

自動車運転時の運転者の身体運動と車内視界の振動の大きさが,運転者の感じる主観的な乗り心地に及ぼす影響について検討した。一定パワーの身体振動を与え,これと同期した車内視界の振動の振幅比を変化させた場合に,運転者の主観的な乗り心地と揺れの感覚がどのように変化するかを測定した。また,被験者の頭部運動を測定し,揺れの感覚との関係を調べた。
 本実験は三重大学大学院工学研究科実験倫理委員会の承認の元に実施され,18〜39歳までの健康な男女25名を被験者とした。実験の実施前に目的,方法,予期される影響などについて十分な説明を行い,被験者から文書による同意を取得した。凹凸のある路面を時速60 kmで直線走行する自動車の振動を模擬した身体運動刺激と視覚刺激を被験者に与えた。身体運動刺激として,被験者をモーションベースに乗せ,ロールとピッチの複合振動を与えることで,座席から受ける刺激とした。また,視覚刺激として,自動車の車外風景および車内視界の3D映像(水平103 deg×垂直36 deg)を被験者前方のスクリーンに映した。車内視界の振動は身体振動と同期させ,身体振動の大きさの−1.0,0.5,0.7,1.0,1.4,および2.0倍とした。被験者の頭部に姿勢センサを取り付けたヘッドギアを装着させ,頭部運動のX,Y,およびZ各軸方向への角加速度を計測した。1試行の刺激時間は45秒とし,900試行の実験を実施した。
 本研究では,「乗り心地の良さ」を「壮快感」と「快適さ」の2つの要素からなると定義し,「壮快感」を「ドライブを楽しみ,うきうき·わくわくするような快さ」,「快適さ」を「ドライブをしていてリラックスできるような穏やかな心地よさ」とした。これらに「被験者が感じた揺れの大きさ」を加えた3項目を評価項目として設定した。これらの項目についてThurstoneの一対比較法に基づき,各刺激を1つ前の刺激と比較して+または−の2件法で評価させ,得られた結果に対し比較判断の法則に基づいて距離尺度化を行った。
 被験者の評価結果から,壮快感は車内視界の振幅が大きい方が高まる傾向があること,快適さは車内視界の揺れが小さいほど高くなること,および被験者の主観的な揺れの感覚は車内視界の振幅が大きいほど強くなることが示された。一方,被験者の頭部振動の大きさは,車内視界の振動の大きさによらず,身体振動刺激の6.4倍程度でほぼ一定であった。この結果により,主観的な揺れの感覚の大きさは,前庭刺激によるものではなく,視運動刺激によって変化したと考えられる。すなわち,車内視界の振動を抑えると,主観的な揺れの感覚が抑制され,壮快感は低下するものの,快適さが高まると考えられる。