宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 66, 2011

一般演題

16. 3か月の宇宙滞在マウス骨格筋におけるmicroRNAの発現

後藤 勝正1,2,大野 善隆2,生田 旭洋1,後藤 亜由美1,杉浦 崇夫3,大平 充宣4,吉岡 利忠5

1豊橋創造大学大学院 健康科学研究科
2豊橋創造大学 保健医療学部
3山口大学 教育学部
4大阪大学大学院 医学系研究科
5弘前学院大学

MicroRNA expressions of mice skeletal muscles in response to long-term space flight

Katsumasa Goto1,2, Yoshitaka Ohno2, Akihiro Ikuta1, Ayumi Goto1, Takao Sugiura3, Yoshinobu Ohira4, Toshitada Yoshioka5

1Department of Physiology, Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2Laboratory of Physiology, School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
3Faculty of Education, Yamaguchi University
4Graduate School of Medicine, Osaka University
5Hirosaki Gakuin University

宇宙滞在による無重量環境曝露は生体機能に大きな影響をもたらす。運動器である骨格筋は無重量環境曝露により萎縮することはよく知られている。その一方で,長期間の宇宙滞在による影響は明らかでない。そこで,3か月国際宇宙ステーションに滞在したマウス骨格筋における遺伝子発現について検討した。マウスは国際宇宙ステーションに搭載したmouse drawer system(MDS)で3ヶ月間飼育された。対象群としては同じ期間地上で飼育した。全てのマウスより,ヒラメ筋,長趾伸筋,前脛骨筋および腓腹筋を摘出し,凍結した。凍結した筋肉組織よりmicroRNAを抽出し,リアルタイムRT-PCRにより発現量を評価した。骨格筋におけるmicroRNA (miRNA)の発現量は,筋の種類に異なるものであった。骨格筋特異的miRNAであるmiR-1では,ヒラメ筋および長趾伸筋に比べて前脛骨筋および腓腹筋における発現量が高かった。こうした傾向はmiR-133a,miR-133b,miR-378でも認められた。また,ヒラメ筋におけるmiR-206およびmiR-208bの発現量は,他の筋における発現量に比べて高い傾向を示した。3ヶ月間の宇宙滞在により,前脛骨筋ではmiR-1をはじめほとんどのmiRNAの発現量の増加が認められた。腓腹筋では,3ヶ月間の宇宙滞在によりmiR-1,miR-133a,miR-133b,miR-378の発現量が,長趾伸筋ではmiR-27a,miR-27b,miR-133a,miR-208bおよびmiR-378の発現量が増加した。一方ヒラメ筋では,3ヶ月間の宇宙滞在により発現量が増加するmiRNAは認められず,miR-27a,miR-27b,miR-206,miR-208bおよびmiR-378の発現量は減少した。3か月の宇宙滞在により顕著な萎縮が観察されたのはヒラメ筋であり,長趾伸筋では萎縮が認められなかった。したがって,ヒラメ筋における発現量と長趾伸筋における発現量が大きく異なり,かつ3ヶ月間の宇宙滞在の影響が反対であったmiR-206およびmiR-208bが無重量環境曝露に伴う骨格筋の適応において鍵となるmiRNAであることが示唆された。今回は宇宙実験のため個体数が少なく,今後さらなる検討が必要と考えられた。尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会による審査·承認を受けて実施された。本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費(B, 20300218; A, 22240071; S, 19100009)ならびに日本私立学校振興·共済事業団による学術振興資金を受けて実施された。