宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 62, 2011

一般演題

12. 国際宇宙ステーション「きぼう」における微生物研究:Microbe-I·II中間報告

槇村 浩一1,2,3,山崎 丘1,2,3

1帝京大学大学院 宇宙環境医学
2帝京大学 医学部 医科生物学
3帝京大学 医真菌研究センター

Microbiological study on board ISS/KIBO:Progress report on Microbe-I & II Experiment

Koichi Makimura1,2,3, Takashi Yamazaki1,2,3

1Laboratory of Space and Environmental Medicine, Graduate School of Medicine, Teikyo University
2Department of Biomedicine, Faculty of Medicine, Teikyo University
3Institute of Medical Mycology, Teikyo University

環境および常在微生物は,免疫撹乱状態の患者においては日和見型感染症を発症し,免疫力が正常な宿主においても高濃度の曝露によってアレルギー疾患を惹起する恐れがある。また,微小重力下では,真菌分生子のヒトへの曝露ならびに付着の状況が地上とは異なることも容易に想像される。したがって,感染またはアレルギーも地球上とは異なった病態となりうる。さらに,地上に比較して高線量の宇宙線に曝露するこれらの「宇宙微生物」が高度の病原性またはアレルギー原性を獲得する可能性も否定できない。以上を総合して考えると,ISSを初めとした地球外の人工空間においても,実際上排除が困難な内因性(常在菌),および環境由来真菌によって,宇宙環境固有の様々なストレスのために免疫力を撹乱された乗員の健康が損なわれる状況が危惧される。従って,宇宙環境において乗員の健康と安全を確保するためには,地上における感染症,アレルギー,および環境微生物災害管理にも増して,より綿密は環境および体内外における微生物叢のサーベイランスが必須と言える。以上の認識から本研究では,宇宙環境内において微生物関連健康障害対策上必須となる微生物叢の検索,同定を継続的に行い,宇宙におけるヒト生活環境における機器の健全性への影響を考察することを目的とした。まず,ISS日本モジュール(JEM)/「きぼう」真菌を含めた環境微生物モニタリング(Microbe-I実験:打ち上げ前の0-timeサンプリングを含む)を実施し,運用開始後約450日時点における「きぼう」船内は,地上におけるバイオクリーンルームに相当する清浄度が保たれていたことを明らかにした。引き続き船内の真菌叢を経過観察するべく1,000日時点におけるサンプリング調査を施行した。その結果,船内表面環境からPenicillium expansum,Aspergillus sydwii,およびRhodotorula minutaの3菌種7株が分離培養された。これら菌種は都市的環境に一般的な真菌であり,直ちに健康障害等を引き起こすものではないが,管理された人工的閉鎖的有人環境である我国のモジュール内においても真菌の発育を抑制できなかったことは事実である。本報告では,宇宙ステーション内で発育した上記菌株の表現形質の一部について紹介したい。本研究は,Microbe-IとJEM二期利用テーマとして採択され,2010年10月から2011年2月にかけて,「国際宇宙ステーション内における微生物動態に関する研究(Microbial dynamics in International Space Station, OpNom:Microbe-II)」として実施された軌道上真菌叢解析実験の真菌関連研究成果の中間報告である。(会員外共同研究者:帝京大学 佐藤一ト,明治薬科大学 杉田隆,法政大学 月井雄二,理研 辨野義己,カビ相談センター 高鳥浩介)