宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 58, 2011

一般演題

8. 東日本大震災直後における睡眠

水野 康

東北福祉大学 子ども科学部

Sleep after Tohoku-Pacific Ocean Earthquake in 2011

Koh Mizuno

Faculty of Child and Family Studies, Tohoku Fukushi University

2011年3月11日に東日本大震災が発生した。地震発生直後から,津波,停電,交通インフラの寸断による物流の停滞など様々な問題が生じ,被災地の生活は日常生活から一変したものとなった。著者は,高齢者の睡眠評価として1週間のアクチグラフィおよび寝室の温湿度測定を偶然3月9日より実施していた。震災後に協力者の安否確認とともに機器回収を行ったところ,全8人の対象中,6人は1週間,2人は各4日および5日間アクチグラフを装着しており,期せずして震災前から震災当日を含むデータを得ることとなった。
 対象は,仙台市在住の男性3人および女性5人(平均年齢73.1±4.3歳)であり,2010年11月〜翌年1月まで,特定高齢者支援事業としての運動教室もしくは口腔ケア教室に参加していた。これら教室の開始時および終了時に睡眠評価を実施しており,3月の測定は教室終了6週後のフォローアップ測定にあたる。測定項目は,1週間のアクチグラフィ(Micro Sleep Watch:AMI社)および寝室の温湿度の連続測定(TR-74Ui :T&D社,5分毎に測定)とし,アクチグラフィからは就寝·起床時刻や睡眠効率などの睡眠指標を算出した。機器回収1〜3週後に測定結果の報告とともに,停電の状況,眠った場所,および睡眠中の着衣など,睡眠に関連する事項を聴取した。被験者8人中6人は,家屋の被害も少なかったため測定期間中は自宅で過ごしたが,1人は家屋の被害が大きかったため,地震当日から避難所である小学校の体育館に移動した。もう1人は独居生活であったため,地震当日から近在の親戚の家に移動した。震災後,被験者により2〜4日間停電となった。
 アクチグラフィから判定された就寝〜起床までの時間は,震災前の2夜の平均が8.2時間,震災当日が8.4時間とほぼ同等であったが,この時間中に睡眠と判定された時間の割合(睡眠効率)は,震災前の平均92%から震災当日は平均72%と大きく低下した。震災当日の睡眠効率が最低値を示したのは,避難所に移動した被験者であり,9.1時間の就寝時間中,睡眠効率は40%となった。本人によれば,体育館が寒く,自宅の布団を持ち込んだが底冷えがして眠れなかったとのことだった。一方,震災当日を含む夜間睡眠効率が一貫して90〜97%を示す被験者も1人存在した。翌晩には,おそらく前夜の睡眠不足および停電の影響から就寝時間が平均約1時間早期化し,就寝〜起床までの時間の1時間の延長がもたらされた。震災後の第3夜には,睡眠効率等の睡眠指標は震災前の水準までほぼ回復した。夜間睡眠中の寝室の平均気温は,震災当日の夜は平均約4°C低下し,約8°Cとなった。一方,2人は震災前から寝室の平均気温が約5°Cと低く,震災当日も1〜2°Cの室温低下に留まった。震災に伴う睡眠に関わる事項としては,不安感,余震,寒さによる睡眠の質の低下や,外出できる着衣で就寝などが挙げられた。不十分な睡眠は判断力や気分などの脳機能や免疫機能などの低下,転倒リスクの増大をもたらすため,このような状況下では,特に慎重な行動が必要である。また,災害時特有の睡眠状況は,今後の災害対策勘案上,貴重な知見となることが考えられた。
 本データ取得は,文部科学省による地域イノベーションクラスター事業の一環として行われた。