宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 54, 2011

一般演題

4. 予備呼吸不要な船外活動用宇宙服の開発

田中 邦彦,間野 忠明

岐阜医療科学大学 保健科学部 放射線技術学科

Development of a space suit for extravehicular activity with no need to pre-breathe

Kunihiko Tanaka, Tadaaki Mano

Department of Radiotechnology, Gifu University of Medical Science

地上あるいは宇宙ステーション内の大気組成は窒素(0.79気圧),酸素(0.21気圧)の混合気で1気圧 (760 mmHg)である。一方,現在アメリカ合衆国で採用され,日本人宇宙飛行士も使用している船外活動用宇宙服(以下,宇宙服)は純酸素で0.29気圧(220 mmHg)に与圧されている。これは宇宙服内圧と外部高度真空との圧較差を可能な限り小さくし,可動性をより高く確保するためである。宇宙服内の酸素分圧は地上よりやや高いが,窒素分圧は0である。したがってステーションから短時間でこの宇宙服を装着し,船外へ出ると血中·間質液中の窒素が溶出し,関節痛や肺塞栓などの減圧症を引き起こす。これを予防するため宇宙飛行士は予備呼吸を行い,徐々に血中窒素分圧を下げていく。これまでの研究では短時間の減圧であっても0.65気圧以上であれば減圧症の発症が認められないという。したがって宇宙服内圧を0.65気圧以上に維持することで予備呼吸を行わなくとも船外活動を行えると言える。しかし,現行の0.29気圧であっても宇宙服内外の圧較差によってさらに宇宙服は膨張し,可動性の低下が低下すると考えられる。しかし逆に高い可動性さえ確保できるのであれば,高圧で与圧することができ,減圧症の危険も低下すると考えられる。これまでに我々は,0.65気圧の伸縮性グローブを作成し,その有用性を評価·報告した。今回,同様の素材を用いてグローブを除く全身の与圧服を作成した。これに対する現在までの与圧,可動性評価に関して検討,報告した。