宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 4, 53, 2011

一般演題

3. 宇宙飛行士の健康管理(運動·栄養)を題材としたJAXA版児童向け健康増進プログラムの実施

新堀 真希,山田 深,松尾 知明,中尾 玲子,神山 慶人,武岡 元,松本 暁子,大島 博,向井 千秋

宇宙航空研究開発機構

The health promotion program for children using the astronaut's health management

Maki Niihori, Shin Yamada, Tomoaki Matsuo, Reiko Nakao, Yoshito Kamiyama, Hajime Takeoka, Akiko Matsumoto, Hiroshi Ohshima, Chiaki Mukai

Japan Aerospace Exploration Agency

本格的なJEMの利用が始まった現在,宇宙という特殊な環境に長期滞在する宇宙飛行士の健康管理に資するための様々な研究を進めているが,宇宙医学生物学の成果は社会にも還元していかなければならないと考えている。我々は,宇宙開発を通して子どもたちに将来の夢や希望を与え,これまでに得られた知見を青少年の健全な育成にも活かしていく責務を負っている。JAXA宇宙医学生物学研究室では,宇宙医学生物学に関する研究成果を社会還元する方法の一つとして,教育·アウトリーチの分野に積極的に取り組んできた。これまで,実験装置等を公開する展示室,座学講義プログラム,体験型授業プログラムなどを整備し,児童から一般までを対象とする教育プログラムを構築してきた。そのノウハウを活かし,より効果的な有人宇宙技術や健康管理の知識·技術を用いた教材の開発を目標として活動を続けている。
 近年,成人だけでなく子どもの肥満が先進諸国共通の問題となっており,子どもに自らの生活習慣に対する関心と,運動·栄養の正しい知識を与えることができるような教育プログラムが必要とされている。2011年1月より,世界の宇宙機関が参加する国際協力教育プログラムである「Mission X:Train Like an Astronaut」が実施された。JAXAは日本における教育的視点から内容を補正し,国際的なイベントに部分的に参加した。JAXA版児童向け健康増進プログラム(Mission X in Japan)を作成し,全3回にわけて実施後,アンケート調査により,プログラムの教育効果を検証した。
 Mission X in Japanの進行に伴い,特に保護者の興味·関心が大きく増加した。「運動や栄養を,宇宙と関連付けることに意義がある」と答えた保護者も初回の50%から最終回は92%に増加した。児童は,全3回に渡って約7割が「興味が持てた」と回答した。また,「宇宙飛行士の健康の秘密がわかった」と回答する児童は,初回の55%から最終回の72%に増加し,自由記述の感想と併せて考察すると,本プログラムを通して「宇宙飛行士」と「健康」という単語の結びつきが生まれたことが推察された。児童と保護者がともに参加し,保護者が家庭における指導的な役割を果たし,習得した知識·技術の継続を援助することは,根本的な生活習慣の改善に非常に有用である。
 このようなプログラムは教育関連の学会等でも報告され,関心を持った学校単位での取り組みにも着手しはじめている。宇宙医学生物学研究の視点から効果的な児童向け教育プログラムを提供していくことは,現代社会が抱える肥満等の健康·生活習慣問題への対策として,極めて効果的に社会的ニーズを満たすものであり,宇宙医学生物学研究室が目指す「社会に役立つ宇宙医学」の実践そのものであると言える。