宇宙航空環境医学 Vol. 48, No. 3, 35-40, 2011

原著

低圧環境下における気管チューブのカフ圧の変動について

蔵本浩一郎,吉村 一克

防衛省 航空自衛隊 航空医学実験隊

The Change of Endotracheal Tube Cuff Pressure and Tracheal Wall Pressure in Hypobaric Environment

Koichiro Kuramoto, Kazuyoshi Yoshimura

Aeromedical Laboratory, Japan Air Self-Defense Force, Ministry of Defense

ABSTRACT
 Introduction : An endotracheal tube has an inflatable cuff to seal the trachea to prevent air leakage. Internal pressure of the cuff must not exceed the tracheal mucosal capillary perfusion pressure to avoid blood flow obstruction. However, the relationship between intracuff pressure and tracheal wall pressure has not been established scientifically. When an endotracheal tube is used during air evacuation, intracuff pressure may increase significantly as altitude increases. This may increase tracheal wall pressure and result in tracheal mucosal injury. Methods : To investigate the relationship between intracuff pressure and tracheal wall pressure, two experiments were conducted. The first experiment measured intracuff pressure and tracheal wall pressure at different points of cuff volume at sea level. The cuff was inflated incrementally by injecting 0.2 ml of air or water each time to a total of 5.0 ml. The second experiment observed the intracuff and tracheal wall pressure changes during altitude change. Three endotracheal tubes were inserted into “model” tracheas and the cuffs inflated with either air, water, or water mixed with air at sea level. These three configurations were then placed in an altitude chamber and exposed to lower pressure up to an equivalent altitude of 2,440 m (8,000 ft). Intracuff pressure and tracheal wall pressure were measured at incremental altitudes in each case. Results : In the first experiment, intracuff pressure increased in parallel with tracheal wall pressure as cuff volume increased in both cases of air and water inflation at sea level. In the second experiment, when the cuff was inflated with air, both intracuff pressure and tracheal wall pressure increased linearly up to seven times greater at 2,440 m (8,000 ft) than that at sea level. When the cuff was inflated with water, both intracuff pressure and tracheal wall pressure were maintained and unaffected by altitude change. When the cuff was inflated with water and air, the pressures only doubled at 2,440 m (8,000 ft) as compared to sea level. Discussion : Intracuff pressure seems to be a good indicator to monitor tracheal wall pressure because intracuff pressure and tracheal wall pressure changed in parallel when the cuff was inflated. Although the cuff inflated with water maintained the same intracuff pressure during altitude change, it is difficult to monitor intracuff pressure when it is inflated with water. In addition, water can damage the cuff. We recommend inflating the cuff with air and monitoring the intracuff pressure frequently when an endotracheal tube is used in a patient being evacuated by aircraft.

(Received : 19 July, 2011 Accepted : 31 March, 2012)

Key words : endotracheal tube, altitude, aeromedical evacuation

I. はじめに
 気管挿管では,誤嚥及び空気の漏出防止のため,気管チューブ先端部に取り付けられたカフを膨張させて気管内壁を閉鎖する。このとき気管粘膜の毛細血管血圧の値25〜35 mmHg(35〜47 cmH2O)より高いカフ内圧で気管を閉鎖すると,接触する気管粘膜に障害が生じる恐れがある4,6)。他方,航空機による患者搬送の際には,地上で適切なカフ内圧であっても,高度の上昇に伴う機内気圧の減少によりカフ内圧が上昇する恐れがあり5),やはり気管粘膜への影響が懸念される。このため米軍ではカフの中に生理食塩水を注入し1,5,7),航空患者搬送時に不可避である低圧環境への対策としている。また,カフと気管内壁との接触面圧を測定する代わりに,カフ内圧を測定することが妥当なのかという疑問8) が臨床の場から示され,それに対する理論的考察はある9) が,実験的な検証はなされていない。
 そこで本研究では,まず,カフ内圧の測定が接触面圧の測定の代用となり得るかを評価するため,カフ内へ空気または水を注入し,注入量による接触面圧及びカフ内圧の変化を測定する実験を行った。次に,気管挿管患者の航空搬送において,低圧環境がカフ内圧及び接触面圧に及ぼす影響を定量的に調査するため,一定のカフ内圧に保持したカフを低圧環境へ曝露し,周囲気圧の変化による気管挿管チューブカフの接触面圧及びカフ内圧の変化を測定する実験を行った。

II. 方法
 A. 使用器材と圧力測定方法
 気管チューブは,ポーテックス・ソフトシールカフ付き気管内チューブ100/166/085(スミスメディカル・ジャパン(株),チューブ内径8.5 mm,チューブ外径11.6 mm(36 Fr),カフ外径30 mm)を使用した。カフと気管内壁の接触面圧の測定には,アクリルパイプを使用した模擬気管を用いた。模擬気管のサイズは,成人男性の気管内径が約18 mmという調査結果2)を参考に,内径18 mm外径26 mm長さは約130 mmとした。模擬気管の中央部壁面には,接触面圧測定用の圧力センサを取付けるための穴を空け,穴には雌ねじ加工を施した(Fig. 1A)。接触面圧測定は,(株) 共和電業製小型圧力センサPS-05KD(以下,センサ1)を用いた。センサ1は,外壁に雄ねじ加工を施した外径8 mm,内径4 mmのアクリルパイプ先端に接着して固定した(Fig. 1B)。これを模擬気管の雌ねじにねじ込み,膨張させたカフをセンサ面に接触させて接触面圧を測定した。カフ内圧測定には,(株) 共和電業製低容量型圧力変換器PGM-02KG(以下,センサ2)を用いた。センサ2は,内部にT型の流路を有する自作のアクリル樹脂製治具に取付け(Fig. 1C),流路の一端に気管チューブのパイロットバルーンを,他端に流体注入用のシリンジを接続し,シリンジ−パイロットバルーン間の圧力をカフ内圧として測定した。なおパイロットバルーンは,ナットとワッシャで適度な隙間を設けた2枚のアクリル板で上下から挟み込み,パイロットバルーンが過度に膨らみすぎないようにして,カフ内圧力や注入量を可能な限り正確に制御できるようにした。また水を注入する際には,空気が実験装置内に混入しないよう,予めセンサ2の治具内部,シリンジ等を水で満たしてから実験を行った。本研究で用いた圧力センサにより測定した圧力は,全て周囲大気圧を基準としたゲージ圧で表示される圧力で,測定した圧力センサからの信号は,(株) 共和電業製動ひずみ計DPM-600Aにより調整し,TEAC(株) 製フィールドデータレコーダes8に収録した。実験器材の概要をFig. 2に示す。またカフに注入した水については,本来生体内に留置するカフ等で使用する場合であれば,生理食塩水または滅菌蒸留水等を用いるべきであるが,本研究においては,気管チューブを生体内で使用しないこと,物理的特性に違いがないことから,入手の容易な水道水を用いて実験を行った。
 低圧環境の再現には,航空医学実験隊(航空自衛隊入間基地,埼玉県狭山市)の保有する低圧訓練装置を用いた。この装置は最大14名の被訓練者に対し,高高度飛行が人体に及ぼす影響とその対策並びに酸素マスク,酸素レギュレータ等の取り扱い方法を訓練するもので,地上(訓練時の周囲気圧)から高度約30,500 m相当の気圧(8.3 mmHg)まで訓練室内を減圧することが可能である。

 
Fig. 1 Model trachea (A) and pressure transducers (B, C). Tracheal wall pressure was measured by the transducer “B” and intracuff pressure was measured by the transducer “C”.   Fig. 2 Schematic diagram of the measuring system for intracuff pressure and tracheal wall pressure.

 B. 実験方法
 1. 流体の注入量と接触面圧及びカフ内圧の関係
 第1の実験として,空気または水を少量ずつカフ内に注入し,注入した量の増加に対する接触面圧及びカフ内圧の変化を調べた。まず,カフ及びパイロットバルーン内部の空気及び水を除去した状態から,センサ2の治具に取付けたシリンジより0.2 mlずつ空気または水を注入し,その都度,接触面圧及びカフ内圧を測定した。総注入量は空気では5 mlとし,水では接触面圧が約73.6 mmHg(100 cmH2O)程度になるまでの量(4.4〜4.8 ml)とした。実験は空気の場合で20回,水では6回行った。実験結果は,接触面圧とカフ内圧の測定値について,注入量ごとに有意水準を0.01としてt-検定を行った。
 2. 高度と接触面圧及びカフ内圧の関係
 第2の実験として,「空気のみ」,「水のみ」さらに1気圧環境での体積比を空気1 : 水3とした「空気+水」の3条件で,それぞれカフ内圧が約14.7 mmHg(20 cmH2O)となるようにカフ内を満たした後,低圧訓練装置内において実験開始時の周辺大気圧から,客室の与圧高度の上限3)である約2,440 m(8,000 ft)に相当する565 mmHgまで減圧して,高度と接触面圧及びカフ内圧との関係を調べた。各圧力はゲージ圧(測定時の大気圧を原点として測定した圧力)で表した。実験は「空気のみ」が12回,「水のみ」は8回,「空気+水」は7回行った。なお「水のみ」の条件では,カフ内に気泡の混入がないことを確認した後に実験を行った。

III. 結果
 A. 注入量と接触面圧及びカフ内圧の関係
 実験開始時の周囲気圧は754.6 mmHgであった。
 空気を注入した際の,注入量に対する接触面圧及びカフ内圧の関係をFig. 3に示す。各注入量における圧力は平均値±標準偏差で示した。各注入量での接触面圧とカフ内圧の測定値についてt-検定(有意水準0.01)を行ったところ,注入量が0.2, 0.4, 0.6, 1.0, 2.0 mlで接触面圧とカフ内圧の間に有意な(p<0.01)差がみられた。また,注入量が3.8 ml以上では,接触面圧とカフ内圧はほぼ同一の圧力で推移した。
 次に水を注入した際の,注入量と接触面圧及びカフ内圧の関係をFig. 4に示す。総注入量が実験ごとに異なるため,6回とも計測ができた4.4 mlまでを示した。水では注入直後にカフ内圧のみが急激に上昇し,以後接触面圧とカフ内圧は差圧を保ったまま微増した。注入量が3 ml程度から接触面圧がカフ内圧に近づき,3.8 mlからはどちらの圧力も急激に上昇した。空気の場合と同様に,各注入量における接触面圧とカフ内圧の測定値に対しt-検定を行ったところ,注入量が0.2〜3.2 mlの各測定点で有意な(p<0.01)差がみられた。また,注入量が3.8 ml以上では接触面圧とカフ内圧はほぼ同一の圧力で推移した。

 
Fig. 3 Changes in intracuff pressure (□) and tracheal wall pressure (◆) with cuff volume. Cuff was filled with air. Values are mean (SD). The pressures are shown at 0.2 ml intervals. * : p<0.01, student t-test.   Fig. 4 Changes in intracuff pressure (□) and tracheal wall pressure (◆) with cuff volume. Cuff was filled with water. Values are mean (SD). The pressures are shown at 0.2 ml intervals. * : p<0.01, student t-test.

 B. 低圧環境と接触面圧及びカフ内圧の関係
 1. 低圧環境
 測定された気圧は,開始時平均743.4 mmHg(高度186 m相当),終了時平均565.1 mmHg(高度2,430 m相当)であり,気圧は平均178.3 mmHgの低下が認められた。
 2. 接触面圧及びカフ内圧の変化
 空気のみをカフに注入した場合,開始時の接触面圧及びカフ内圧についてはそれぞれ平均16.2 mmHg(22.0 cmH2O),平均15.7 mmHg (21.3 cmH2O)で,気圧の低下に伴い接触面圧及びカフ内圧はほぼ直線的に増加し,終了時の接触面圧,カフ内圧はそれぞれ平均97.8 mmHg (133.0 cmH2O),平均104.6 mmHg(142.2 cmH2O)となった(Fig. 5)。
 「水のみ」をカフに注入した場合は,開始時の接触面圧,カフ内圧はそれぞれ平均17.3 mmHg(23.5 cmH2O),平均15.5 mmHg(21.1 cmH2O)で,気圧の低下に関係なくほぼ一定の値を示し,終了時の接触面圧,カフ内圧はそれぞれ平均18.1 mmHg(24.6 cmH2O),平均16.8 mmHg(22.8 cmH2O)だった(Fig. 6)。
 「空気+水」をカフに注入した場合は,開始時の接触面圧,カフ内圧はそれぞれ平均19.6 mmHg(26.7 cmH2O),平均15.4 mmHg(20.9 cmH2O)で,気圧の低下に伴う増加の程度は少ないものの圧力は直線的に増加し,終了時の接触面圧,カフ内圧はそれぞれ平均36.6 mmHg(49.8 cmH2O),平均33.2 mmHg(45.2 cmH2O)となった(Fig. 7)。
 なお,「水のみ」または「空気+水」を注入した場合,カフ内圧は測定毎の変動が大きく,平均値では接触面圧に対してカフ内圧が低かった。

 
Fig. 5 Changes in intracuff pressure (□) and tracheal wall pressure (◆) with altitude. Cuff was filled with air. Values are mean (SD). The pressures are shown at 500 ft intervals.   Fig. 6 Changes in intracuff pressure (□) and tracheal wall pressure (◆) with altitude. Cuff was filled with water. Values are mean (SD). The pressures are shown at 500 ft intervals.
Fig. 7 Changes in intracuff pressure (□) and tracheal wall pressure (◆) with altitude. Cuff was filled with water and air. The ratio of water and air in the cuff was three to one. Values are mean (SD). The pressures are shown at 500 ft intervals.

IV. 考察
 気管は軟骨や筋肉,粘膜組織等により構成されるため,弾性管と考えられ,カフ内に空気等を注入し加圧すると,カフが膨張するのに伴って管腔は弾性変形を開始する。しかしながら,カフの接触面圧と気管の弾性力がつりあった時点では管腔の変形が停止するため,カフの接触面圧とカフ内圧との関係には影響を与えない。このことから,本研究においては,剛体とみなせるアクリル樹脂で気管を模擬し,測定を行った。
 カフが拡張し気管内壁と十分に接触した部分においては,カフの張力は消失し,接触面圧とカフ内圧は等しくなる。今回の実験では,3.0 mlより少ない注入量においては,カフ内圧と接触面圧の間に差がみられることから,カフは模擬気管内壁に十分接していないが,3.8 ml以上の注入量ではカフ内圧と接触面圧は等しく推移したことから,3.8 ml付近でカフと模擬気管内壁は十分に接したものと考えられる。ここで,模擬気管内でカフが膨張した場合に占めるカフの容積を計算するため以下の仮定を設ける。
 仮定1「カフ膜面は弾性変形せずに膨張する。」
 仮定2「カフ膜面は皺がよらずに模擬気管内壁と接している。」
 仮定3「カフ膜面の,気管チューブとの接合点から模擬気管内壁との接点までの断面形状を四分円とする。」
 これらの仮定の下,模擬気管内径17.6 mm,気管チューブ外径11.6 mm,カフ全長30.0 mm(実測値)を用いて 模擬気管内でのカフ膜面が占めるカフの容積を計算すると3.93 mlとなり,今回の実験結果はこれに近い値となった。なお,3.8 ml注入時のカフ内圧は空気で約13 mmHg,水で約20 mmHgであり,空気の漏出がないようにカフを十分膨らませた状態では,カフ内圧と気管内壁への接触面圧とが等しくなることが実験的に検証された。したがって,気管挿管時に気管内壁の損傷を防ぐためには,カフ内圧を測定することが必要である。
 気圧が低下するとカフ内圧が増加する理由は,次のように考えることができる。気圧は真空を基準(原点)とした「絶対圧」であるが,カフ内圧及び接触面圧は周囲気圧を基準(原点)としたゲージ圧である。カフ内圧を絶対圧で表すと「気圧+カフ内圧(ゲージ圧)」となる。ここで気圧がP0からP1に減少した場合のカフ内圧(ゲージ圧)をΔP0, ΔP1,カフ内の体積及び温度をV0, V1, T0, T1とすると,カフ内が気体の場合は近似的にボイル・シャルルの法則より
 (P0+ΔP0) V0 / T0 = (P1+ΔP1) V1 / T1
の関係が成り立つ。これを変形して
 (P0+ΔP0) / (P1+ΔP1) = (V1 / V0) (T0 / T1
温度変化はほとんどないものと仮定してT0 / T1 = 1とし,さらにカフが完全に気管内に接触しているとすると体積は膨張できないためV1 / V0 = 1となり,
 P0−P1 = ΔP1−ΔP0
と変形できる。したがって,気圧が低下しただけカフ内圧(ゲージ圧)が上昇することになる。実際には,カフが気管壁に接触していない部分が存在し,体積の増加が起こるため,V1 / V0 > 1であり
 P0−P1 > ΔP1−ΔP0
となる。以上のことから,気体が注入されたカフにおいては気圧が低下すればカフ内圧は上昇し,そのときのカフ内圧の上昇分は気圧の低下分よりも少ないことが分かる。
 一方,液体は圧力の変化に対してほとんど体積が変化しないため,気圧の低下によるカフ内外の圧の不均衡は,極わずかな体積増加により速やかに均衡するため,カフ内圧の測定上の変化は認めない。
 今回の検証では,気圧が178.3 mmHg(242.4 cmH2O)低下したときに,「水のみ」をカフに注入した条件では接触面圧,カフ内圧ともにほぼ一定であったが,「空気のみ」では約90 mmHg(122.4 cmH2O)上昇,水に空気を25%混入した「空気+水」条件では約18 mmHg(24.5 cmH2O)上昇し,カフ内に気体が存在すると気圧の低下とともにカフ内圧,接触面圧が増加すること,その増加は気圧の低下よりも小さいことが実験的にも示された。
 人体組織は非膨張性の液体等と同様に周囲気圧と平衡に達していることから,高度によらず気管粘膜の毛細血管血圧は25〜35 mmHg (35〜47 cmH2O)である6)ため,空気のみの条件では約460 m以上の高度の上昇による接触面圧の増大は気管粘膜の血流を阻害する可能性がある。またSeegobinらは血流を阻害しないためにはカフ内圧が22 mmHg(30 cmH2O)を超えないようにすべきだとしているが6),今回の実験においてこの圧力を超えなかったのは水のみの条件しかない。したがって気管挿管した患者を空輸する際に,米軍が生理食塩水でカフ内を満たすということをマニュアルで示している1,7)ことは合理的と思われる。しかし一方で,カフ内を生理食塩水などの液体で充填する場合には以下の問題が存在する。膀胱留置カテーテルなどとは違い,元来液体によってカフを膨らませるようには作られておらず,パイロットバルーンとカフの間の連結管が極めて細く通過抵抗が高いため,迅速な液体の注入が困難なだけではなく,必ずしもパイロットバルーンの内圧とカフ内圧が一致しない。また,液体で充填した場合は注入量を少量増加させただけで急激に圧力が上昇するため,微妙な調整が難しい。さらに,カフ内に多少でも空気が存在すると周囲の気圧の低下に伴う内圧の上昇がみられるため,空気の混入を防ぎながら注意深くカフに液体を注入しなければならず,迅速な対応が困難である。今回の実験においても水だけを注入する作業はかなりの手間と時間を要した。加えて,カフに液体を注入した場合は,一般のカフ圧計では測定できないことも管理上大きな問題である。また,本研究で用いた気管チューブの添付文書には明記されていないが,他の製品においては空気以外でカフを膨張させることは禁忌となっている。
 以上のことから,航空搬送を行う患者に気管挿管を行う場合には,空気を注入してカフを膨らませ,高度の変化に従い頻回にカフ内圧を測定,調整することが最も安全で現実的な方法と考えられた。

V. まとめ
 本研究において,気管チューブを模擬気管の内部に留置し,1気圧環境においてカフ内に空気又は水を注入して接触面圧とカフ内圧の関係を調べた結果,カフが模擬気管内壁に十分接しているならば,接触面圧とカフ内圧は等しいことが明らかとなった。したがって,接触面圧を監視するためにカフ内圧を測定することは妥当であるといえる。さらにカフ内を「空気のみ」,「水のみ」及び「空気と水」の3条件で満たし,高度2,440 m(8,000 ft)相当の低圧環境下(565 mmHg)における接触面圧とカフ内圧の関係を調べた結果,「水のみ」ではほとんど変化しなかったが,「空気のみ」では圧力がそれぞれ約7倍に増加し,「空気と水」でもそれぞれ約2倍に増加した。しかし,カフ内への水の迅速な注入が困難であること,一般のカフ圧計では液体の圧力測定ができないことなどから,航空搬送患者に気管挿管を行う場合において,カフ内には空気を注入して膨らませ,高度の変化に従い頻回にカフ内圧を測定,調整することが最も安全で現実的な方法と考えられた。

謝辞
 本論文を執筆するに当たり,貴重なご助言を頂きました防衛医科大学校防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門 立花正一教授に感謝いたします。

文 献

1) Department of the Air Force, Aeromedical evacuation patient considerations and standards of care, AFI 41-307, 2003.
2) 上藤哲朗,宮脇有紀,遠藤玲子,黒野格久 : 加齢による気管内径の拡大,(社)日本麻酔科学会第52回学術集会,Available at http://nsa.kpu-m.ac.jp/kako/masui52/pdf/P1-23_12.pdf (Jul. 27, 2010).
3) 国土交通省,耐空性審査要領,空検第381号,昭和41年10月20日.
4) 小瀧正年,表 哲夫,岩崎 寛,並木昭義:気管内チューブカフ内液体注入によるカフ内圧の検討,日本臨床麻酔学会誌,16, 419-423, 1996.
5) Rice, D.H., Kotti, G. and Beninati, W. : Clinical review : Critical care transport and austere critical care, Crit. Care., 12, 207, 2008.
6) Seegobin, R.D. and Van Hasselt, G.L. : Endotracheal tube cuff pressure and tracheal mucosal blood flow : endoscopic study of effects of four large volume cuffs, Br. Med. J., 288, 965-968, 1984.
7) Aeromedical Evacuation Clinical Guidelines (Lesson 3, part I Aero Evac.), Available at http://usasam.amedd.army.mil/dl/Flight%20Provider%20Refresher/Lesson%203%20Aeromedical%20Physiology/Lesson%203,%20part%20I%20AeroEvac.pdf (Aug. 4, 2010).
8) Available at http://www.kpu-m.ac.jp/k/ccn/topics/topics/w0522.html
9) Available at http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/04/suwa/


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