宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 101, 2010

宇宙基地医学研究会

「宇宙基地における環境要因」

1. 国際宇宙ステーションの環境管理について

相部 洋一

宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部

Environmental monitoring and control of international space station

Yoichi Aibe

Japan Aerospace Exploration Agency

国際宇宙ステーション(以下,ISSとする)は,高度約400 km上空を秒速約8 kmで周回する人類史上最大の有人宇宙施設である。構造全体の大きさは約110×73 mと,サッカー場とほぼ同程度であるが,実際に滞在する宇宙飛行士が日常的に活動できうる空間,すなわち地上と同じ約1気圧に与圧され,温湿度ともに普段着のまま活動できるようコントロールされたISS船内の容積は,約935 m3と大型旅客機の1.5-2倍程度にすぎない。その船壁ひとつ隔てた外側は高真空の宇宙空間であるため,ISSはいわば「閉鎖環境」である。ISSには通常6名の宇宙飛行士が約半年間での交代サイクルで滞在し,微小重力環境下での各種実験や宇宙·地球観測など多岐に亘る任務を遂行している。ISSに長期滞在する宇宙飛行士の健康状態を良好に維持するため,ISSにおける医学·健康管理運用は,1)飛行士の体力訓練および定期体力評価等(The Countermeasures System:CMS),2)飛行士の医学検査や 医学·精神心理面談等(The Health Maintenance System:HMS),3)ISS船内の環境維持·管理(船内空気·水·微生物·騒音環境および放射線被曝管理)(The Environmental Health System:EHS),の3つの側面から構成され,実施されている。EHSにおいて船内環境を長期的に良好に維持することは,環境制御·生命維持システム運用と相まって,重要な要素である。空気主要成分/ガス濃度や船内大気圧は,24時間継続モニタが行われ,適切に維持されるとともに,急減圧時等の異常発生時はクルーへの警報が自動で発令する。船内衛生環境維持には定期的な清掃が重要であり,掃除機での清掃やワイプでの清拭作業が行われている。ISSへ接続される新規モジュールや到着する宇宙船等は,打上前に船内オフガス試験や,表面拭取法による微生物試験などが行われ,ISSへの外乱持込みの防止が図られている。これらISSにおける環境モニタおよび維持管理の技術やリソースは,現状では,米·露両国に依存している。今後,我が国の有人宇宙技術開発においては,その自立性·国際貢献等の観点から,長期的視点において獲得していくべき技術として,環境制御·生命維持技術とともに,研究·開発を進めていくことが重要である。