宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 100, 2010

研究奨励賞受賞講演

ウィスターハノーバーラット後肢の抗重力活動抑制が長内転筋に及ぼす影響

大平 宇志1,河野 史倫2,大平 充宣1,2

1大阪大学大学院 生命機能研究科
2大阪大学大学院 医学系研究科

Responses of adductor longus muscle in Wistar Hannover rats to hindlimb unloading

Takashi Ohira1, Fuminori Kawano2, Yoshinobu Ohira1,2

1Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University
2Graduate School of Medicine, Osaka University

これまでのヒトやげっ歯類を用いた研究から,抗重力活動の抑制または微小重力環境暴露により,抗重力筋であるヒラメ筋を構成する筋線維に顕著な萎縮および筋線維タイプの速筋化が誘発されることが広く知られている。また,これらヒラメ筋の特性変化と筋における機械的負荷および神経活動の変化が深く関与していることを示唆する報告も多くなされている。しかし,ヒラメ筋と同様に抗重力筋として知られる長内転筋については以上のようなことが検討された報告は少ない。
 そこで,我々は,微小重力環境暴露時の雄ウィスターハノーバーラット(5週齢)長内転筋における機械的負荷および神経活動の変化について追求した。重力レベルは,小型ジェット機でのパラボリックフライトによって変化させ,フライト中のラット長内転筋の筋電図と,股関節角度を同時に測定した。その結果,床上安静時の長内転筋の筋活動パターンはtonicで,筋の頭側部に比べ,尾側部位が多く活動していることが明らかとなった。一方,微小重力環境暴露時は,筋活動パターンがtonicなものからphasicなものに変化し,1-Gおよび2-G環境時に比べ,筋活動量も減少した。この筋活動量の減少は,筋の頭側部より,尾側部位で顕著であった。
 また,ラットの股関節を床上安静時および微小重力環境暴露時における典型的な角度に維持させた状態で,4%ホルムアルデヒドで固定することにより長内転筋に起こる形態的変化についての解析も行った。その結果,微小重力環境暴露時のラット股関節は,床上安静時に比べ外転するとともに後方へ引き伸ばされ,それに伴って長内転筋尾側部は受動的に短縮し,頭側部はわずかに伸展される傾向が認められた。
 以上の結果を踏まえ,ラットに16日間の後肢懸垂を施すことにより慢性的に後肢の抗重力活動を抑制した場合の,筋電図および股関節角度,筋線維横断面積,各筋線維タイプ(Type I, II, I+II)の占める割合,単一筋線維当たりの筋核数および筋衛星細胞数を測定した。その結果,長内転筋の頭側部に比べ,尾側部で筋線維の萎縮や速筋化が顕著に誘発されたことから,抗重力活動抑制は,ラット長内転筋の頭側部よりも尾側部により特性変化をもたらし,それには機械的負荷および神経活動の変化が関与していることが示唆された。
 本研究は,日本学術振興会科学研究費(基盤S, 19100009) による補助を受けて実施された。