宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 99, 2010

災害非常食体験セミナー

2. 脱水状態時の経口補水液「オーエスワン」の活用

大和 孝江

株式会社大塚製薬工場OS-1 事業部

Use of oral dehydration solution “OS-1”

Takae Yamato

Otsuka Pharmaceutical Factory, Inc. OS-1 Division

経口補水療法(ORT:Oral Rehydration Therapy)は体から喪失した水分と電解質を経口的にすばやく補給する方法である。1970年代,WHOにより開発途上国におけるコレラ患者の脱水状態の改善で有用性が証明され,死亡率低下等の大きな成果を上げた。欧米諸国においても,急性胃腸炎患者(小児〜成人)を主な対象としたORTに関するガイドラインが策定されている。
 ORTに用いられる経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)の組成には主に2つの特徴がある。1点目は,コレラ患者や毒素性大腸菌感染患者の下痢便中に喪失するナトリウムやカリウム等の電解質相当量を含有していること,2点目は吸収を速やかにするために少量のブドウ糖が添加されていることである。ナトリウムはブドウ糖と一緒に摂取することで,小腸粘膜に存在するナトリウムブドウ糖共輸送担体を用いて能動的に吸収され,それにより生ずる浸透圧差によって水分の吸収が促進されることが明らかとなっている。この機構は,感染による激しい下痢の場合でも機能があまり低下しないことがわかっている。
 本邦においても,経口補水液の組成の特徴を満たし,ヒト試験においてその有用性が認められた飲料として,「オーエスワン(OS-1)」が販売されている。オーエスワンは,感染性腸炎,感冒による下痢·嘔吐・発熱伴う脱水状態,高齢者の経口摂取不足による脱水状態,過度の発汗等による脱水状態等,軽度から中等度の脱水状態時に水分 · 電解質の補給·維持するのに適した飲料として厚生労働省より特別用途食品個別評価型病者用食品の表示許可を得ている,日本で唯一のORSである。
 OS-1のヒト試験の一つである「サウナ浴による健常成人脱水モデルを対象としたオーエスワンの水·電解質補給効果の検討」では,90°Cのドライサウナ浴(10分間×3回,10分間のインターバル)による発汗により減少した体重分(平均1.15 kg,体重の約2%)と同量のOS-1または市販ミネラルウォーターを飲用して水·電解質補給効果の比較検討を行った。その結果,OS-1摂取群ではミネラルウォーター摂取で見られた,飲水後の血清浸透圧の極端な低下が抑制されたことから一過性の尿量増加が観察されず,脱水状態の回復の指標である体重維持効果が高くなっていた。また,OS-1摂取群では脱水により高値を示していた血清総蛋白質,アルブミン濃度が速やかに前値に回復し,循環血液量の回復も優れていたと報告されている。このようにOS-1は,熱中症にもつながる暑熱環境下であるサウナ浴によって生じた脱水状態に対する水·電解質補給効果を有している。また,マラソン中のランナーが発汗により脱水状態を呈した場合の救護にOS-1を摂取した事例おいて,他の飲料水を用いていた時に比べて急速かつ効果的な症状の改善が得られ,救護現場において脱水状態時の有効的な応急手当になるとが示唆されたとの報告もある。
 このように,ORTは医療器具を必要とせず比較的簡便な手段で脱水による重症化のリスクを回避できることから,急性胃腸炎,渡航者下痢症,発熱による発汗,介護施設や在宅医療における高齢者の経口摂取不足や体調不良,また,災害医療の現場,暑熱環境下の労働や運動による過度の発汗等,さまざまな場面での脱水状態時の水分·電解質補給として,今後,幅広く活用が期待される。