宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 95, 2010

宇宙航空環境医学若手の会シンポジウム

2. 重力とビタミンDで繋がる宇宙医学の未来

石澤 通康

日本大学 医学部 生化学分野

The study of gravity and vitamin D is a key for the future of space medicine

Michiyasu Ishizawa

Division of Biochemical, Department of Biomedical Sciences, Nihon University School of Medicine

宇宙では,宇宙飛行士の骨密度低下,カルシウム排泄量増加が認められる。ビタミンDはリガンド依存性転写因子である核内受容体Vitamin D receptor(VDR)を活性化し,標的遺伝子を転写することにより,ビタミンD代謝や生体内カルシウム量維持に働く。一方,生物の陸上進出の過程で,ビタミンD生合成に必須の紫外線曝露と重力負荷が同時期に起こったと考えられる。重力とビタミンDの関係性を解明するため,基礎医学系研究室に所属し,生化学,分子生物学を専門とする私は,遠心過重力負荷モデルマウスを用いた宇宙医学研究に関わることとなった。2日間の過重力負荷を行うと,マウスのビタミンD作用部位(腎臓,小腸)において,VDRの標的遺伝子である活性型ビタミンD代謝酵素Cytochrome P450 24A1(Cyp24a1)mRNAの発現亢進が認められ,活性型ビタミンD合成酵素Cyp27b1 mRNAの発現減少が認められた。また,血漿中の活性型ビタミンDは減少した。陸上生物には,一定のビタミンD活性を得るための重力応答メカニズムがあるのかもしれない。さらに興味深いことに,外来性ビタミンD投与による小腸でのCyp24a1 mRNAレベルの上昇効果は,過重力負荷によって促進した。これは,重力の薬剤効果への影響を考察する上で今後有用といえる。
 これまでの私の研究成果より,重力のビタミンDシグナルへの影響をより詳細に検討すること,微小重力環境での過重力負荷の有効性を検証すること,薬物代謝系に対する微小重力,過重力負荷の影響など,様々な展開が期待できる。しかし,私たちが宇宙研究を行うチャンスは多いとはいえない。よって,まずは自分の武器(生業)になる地上での専門分野に精進すべきである。専門分野に根を張りつつ,宇宙開発でのニーズを把握し,いつでも宇宙医学に関連づけた研究が出来る研究者を目指すことが,我々若い世代が目指すべき宇宙医学研究者への近道なのではなかろうか。