宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 93, 2010

シンポジウム/宇宙航空医学認定医セミナー

「適性と選抜」

5. エアラインパイロットの適性と選抜

篠崎 恵二

株式会社日本航空インターナショナル 777 運航乗員部

Right stuff for airline pilot and the selection

Keiji Shinozaki

777 Flight Operations, Japan Airlines International Co., Ltd

エアラインパイロットには,第一義に安全な運航を行うことが求められる。その上で定時性,快適性にも配慮し,効率的な運航を行うことが必要とされる。このような安全で質の高い運航を担うパイロットの確保には,訓練生の適切な選抜と,その後の適切な訓練,審査が重要となる。
 パイロット業務の特徴として,同時に複数の事柄に注意を払い,処理を行う多重業務処理が挙げられる。そのため,一つのことに集中すると他のことが目に入らなくなるような,過度の一点集中型の人は不適格と考えられる。そして,これらの状況認識,判断,行動は,常に時間的な制約の中で行われることから,タイムプレッシャーの下で極度な焦り等から,的確な判断が行えなくなる人も不適格と考えられる。
 また,整備士,運航管理者,客室乗務員,旅客担当者等,周囲と連携して業務を行い,機長と副操縦士で最大のパフォーマンスを発揮するためのコミュニケーション能力が強く求められる。さらに,時々刻々と変化する状況の中で,先々を予測し,情報を集め,優先順位を付け,結果を推測し,決断に至る情報処理能力,危険を回避し緊急事態に備える危機管理能力が,より高いレベルで求められるようになってきている。
 当社の一般大学卒業生を対象とした自社養成パイロット訓練生の選抜は,1次から6次までの試験により構成される。これにより数千人の応募者から,毎年50名程度を目標に訓練生を選抜している。学科試験では,訓練を受ける上でのベースとなる理解力や思考力を確認する。また,試験の早い段階で,各種の心理適性検査も行う。飛行適性検査は,実機やシミュレーターによる飛行検査ではなく,コンピュータ検査による多重業務処理能力検査である。また,当然ながら第一種航空身体検査に適合することを身体検査において確認する。しかしながら,採用の方針は人物重視であり,まずパイロットである前に一人の人間として,共に働きたいかどうかが重要なポイントとなる。その上で,エアラインパイロットに求められる能力の資質を備えているかを,種々の面接を通して確認する。
 このようにして選抜された訓練生の中にも,頻度は多くないものの,技量不足等による訓練中断者が発生する。だが訓練中断は訓練生本人の資質(採用)だけの問題ではなく,その後の教育や訓練の問題の可能性もある。そのため,採用部門と訓練部門の連携を深め,更なる改善に向けた取組みが行われている。
 今後も新しい技術や運航コンセプトによる航空機が導入される。また,より進んだ実践的なCRMの必要性も高まると考えられる。更にはMPLという新しい副操縦士資格も導入される見込みである。これらのことからもエアラインパイロットには,コミュニケーション能力,情報処理能力,危機管理能力が,より一層求められるようになると考えられる。そのため,パイロット訓練生の選抜においても,より人的要素が重視されていくことと思われる。