宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 89, 2010

シンポジウム/宇宙航空医学認定医セミナー

「適性と選抜」

1. 日本人宇宙飛行士

柳川 孝二

宇宙航空研究開発機構 情報システム部

Japanese Astronauts

Koji Yanagawa

Japan Aerospace Exploration Agency

1961年,ガガーリンが人類初の宇宙飛行を行い,全世界を驚愕させて50年が経つ。その23日後,シェパードが米国初の弾道飛行を行った。以降,レオーノフの宇宙遊泳,女性飛行士テレシコワ,アームストロングによる月面活動,最年長飛行士グレンと歴史に名を残す飛行士が続く。
 1981年,米国宇宙往還機「スペースシャトル」が登場し,以降,宇宙飛行士数は累進したが,未だ,500に満たない。人類史上,そこに分類される数が最も少ない職種である「宇宙飛行士」について,一考する。
 米露が宇宙一番乗りを競った時代は,映画「ライト·スタッフ」を鵜呑みすると,「死をも厭わないロケット野郎」が息を詰めるように地球を周回·帰還するのが宇宙飛行士像だったのであろう。一方,現在の主戦場である「国際宇宙ステーション」では,6人の国際パートナー宇宙飛行士が,6か月に渡り,部品点数が一千万オーダにも成らんとする巨大システムを駆使して,様々な科学実験,技術開発を実施する。
 その為に,現代の宇宙飛行士に対しては,自然科学系の学問を修めていること,その方面の実務経験を有すること,運動能力と平衡感覚に優れること,肉体的·精神的な耐久能力を保持すること,多数との意思の疎通に秀でてチームパフォーマンスの最大化を具現出来ること,自己顕示と抑制のバランス感覚に優れること等々,我々凡人には一つでも難しい資質が,山ほど要求される。
 2009年,米国/NASA,欧州/ESA,カナダ/CSA,日本/JAXAで,期せずして宇宙飛行士の募集が在り,合計20人の宇宙飛行士候補者が選抜された。勿論,ロシア/RSAも実施し,5人増強した。各極,独自に選抜を行ったのにも拘わらず,その半数が航空関連の分野からの出身であった。また,かなり強烈な団体行動の経験を有する者が多数であった。JAXAの3人の宇宙飛行士候補者も,この例に漏れない。NASAの過去の募集データも参考にして,この状況を概観する。
 選抜された候補者は,文字どおり,「宇宙飛行士の候補者」である。所定の基礎訓練後に「宇宙飛行士」に認定され,その後の5〜10年にも及ぶ訓練で,様々な技量を習得·向上し,初めて,搭乗に至る。具体的には,英露の二か国語,CRM能力,ロボットアーム操作技量,船外活動技量,団体活動の要諦などがある。
 2008年から開始した,JEM建設は,国際パートナーの宇宙飛行士の協力を得て,JAXA宇宙飛行士,土井,星出,若田,野口,そして,山崎が参画し,成功裏に完了した。また,46か月に及ぶ長期滞在に関しては,若田,野口が実施し,所期の目的を達し,無事,帰還した。来年の6月には古川,その1年後には星出の搭乗が決まり,順調に訓練を継続している。これらの結果から,JAXA宇宙飛行士の個々の資質,選抜,そして,訓練の何れの点でも,世界一級の水準に達していると判断出来る。
 空前絶後の国際協力プロジェクトである「国際宇宙ステーション」は2020年まで運用される予定だが,今後,7回程度のJAXA宇宙飛行士の長期滞在が実施される見込みだ。現在,基礎訓練中の候補者,油井,大西,金井の3人を陣容に加え,確実に,ミッション目的を達成することを確信する。そして,その後の月·火星探査ミッションにおいても,日本人宇宙飛行士の活躍を期待したい。