宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 88, 2010

5.　ヒトにおける宇宙飛行デコンディショニングに対する対抗措置としての人工重力とエルゴメーター運動

岩瀬　敏¹，西村　直記¹，菅屋　潤壹¹，Willam H. Paloski²，Laurence R. Young³，Jack J.W.A. van Loon⁴，Floris Wuyts⁵，Gilles Clement⁶，Jorn Rittweger⁷，Rupert Gerzer⁷，James Lackner⁸

¹愛知医科大学　医学部　生理学第2
²University of Houston, USA
³Massachusetts Institute of Technology, USA
⁴University of Amsterdam and Free University, Netherland
⁵University of Antwerp, Belgium
⁶International Space University, France
⁷DLR, Institute of Aerospace Medicine, Germany
⁸Brandeis University, USA

Artificial gravity with ergometric exercise as the countermeasure for spaceflight deconditioning in humans

Satoshi Iwase¹, Naoki Nishimura¹, Junichi Sugenoya¹, Willam H. Paloski², Laurence R. Young³, Jack J.W.A. van Loon⁴, Floris Wuyts⁵, Gilles Clement⁶, Jorn Rittweger⁷, Rupert Gerzer⁷, James Lackner⁸

¹Department of Physiology, Aichi Medical University School of Medicine
²University of Houston, USA
³Massachusetts Institute of Technology, USA
⁴University of Amsterdam and Free University, Netherland
⁵University of Antwerp, Belgium
⁶International Space University, France
⁷DLR, Institute of Aerospace Medicine, Germany
⁸Brandeis University, USA

宇宙飛行デコンディショニングには，心循環系，骨代謝系，筋骨格系，免疫系，体温調節系，自律神経系において，デコンディショニングがおきるが，その予防と対抗措置のために，国際宇宙ステーションISS内で運用可能な，短腕式遠心機を利用した人工重力およびエルゴメーター運動による運動負荷装置を開発する。これまでの人工重力および運動負荷に関する地上研究により，1.4 G，60 Wを基本として重力と運動をそれぞれ0.2 G，15 Wずつステップアップする「重力·運動ステップアップ·プロトコール法」を毎日累積30分にわたり負荷することが，20日間の模擬微小重力負荷としてのベッドレストに伴うデコンディショニングを予防する対抗措置として有効であることを示した。本装置を実際の微小重力環境であるISS内に設置し，本法による対抗措置が3か月以上にわたるステーション滞在中のデコンディショニングを予防するかどうかを検証する。対抗装置は，ヨーロッパ宇宙機関ESAにより人力短腕式遠心機を設計し，米航空宇宙局NASAのpermanent multipurpose module内に設置する。ISS搭乗員にフライト前とフライト後において，これまでに開発した各種デコンディショニング評価法を適用し，フライト中には，「重力·運動ステップアップ·プロトコール」を遂行させた効果を検証する。本研究の成果は，火星探索飛行等の微小重力環境下への長期間曝露による宇宙飛行デコンディショニングに対する対抗装置を考える上で有用であると考えられる。本研究の特色は，JAXAが提案し，それにESA，NASAの研究者が協力することにある。さらに，ロシアからの参加も呼びかけているため，国際的な共同研究を適切に構成していくことが必要とされる。