宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 86, 2010

3.　長期宇宙滞在がヒトの脳循環調節機能に及ぼす影響

岩�普@賢一¹，青木　健¹，小川　洋二郎¹，柳田　亮¹，大屋　直子¹，曷川　元¹，Benjamin D. Levine²

¹日本大学医学部社会医学系衛生学分野
²テキサス大学　サウスウェスタンメディカルセンター

Human cerebral autoregulation during long-duration spaceflight

Kenichi Iwasaki¹, Ken Aoki¹, Yojiro Ogawa¹, Ryo Yanagida¹, Naoko Oya¹, Hajime Katsukawa¹, Benjamin D. Levine²

¹Division of Hygiene, Department of Social Medicine, Nihon University School of Medicine
²Institute for Exercise and Environmental Medicine, University of Texas, Southwestern Medical Center at Dallas

ニューロラボミッション（STS-90）において，本テーマの提案者らが参加した研究グループは「宇宙飛行によりヒトの脳循環調節機能は維持もしくは増強される」ことを示した（Iwasaki, K., et al. Human cerebral autoregulation before, during, and after spaceflight. J Physiol 579:799-810, 2007）。しかし，この実験は，被験者数6名で，期間も2週間であり，他の実験課題（特に遠心力負荷）の影響をうけた可能性もある。そのため，「先のニューロラボミッションにおける脳循環研究結果の再現性を示すこと」および「長期宇宙滞在による脳循環調節機能への影響を明らかにすること」を目的とし，ISS宇宙飛行士を被験者とする実験を計画した。そして昨年度（2009年)，「ライフサイエンス及び宇宙医学分野の国際宇宙ステーション利用実験の国際公募」に応募し，候補テーマとして選定された。
　本研究においては，宇宙滞在前後と滞在中1，2，4週間目，その後1ヶ月毎に，連続血圧計により動脈圧波形を，経頭蓋ドップラー血流計により中大脳動脈血流速度波形を測定記録することを計画している。帰還後，記録した両波形に周波数解析を施すことで，脳血流速度の変動量の指標と，血圧変動の脳血流変動に対する影響の程度の指標（Gain, Coherence）を算出して，脳循環調節機能を評価する。その際，宇宙滞在前のベースラインデータに比較して，宇宙滞在中もしくは宇宙滞在後に，脳血流速度の変動量が減少したり，血圧変動の脳血流変動に対する影響の指標が低下していれば，脳循環調節機能が増強されたと判断される。
　本実験が実施された場合の予測される結果と意義としては，滞在1，2週間目で脳循環調節機能の増強を認めた場合は，先のニューロラボミッションにおける脳循環研究結果の再現性の証明となる。また，反対に脳循環調節機能の悪化を認めた場合は，両研究における条件の相違が原因と考えられる。つまり具体的にはニューロラボにおける遠心力負荷などが想定され，その際には遠心力負荷が循環系の不調への対抗措置となる可能性を暗示する。さらに本提案は長期宇宙滞在が脳循環調節機能に及ぼす影響を初めて示す研究となる。