宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 84, 2010

特別シンポジウム

「ISS利用ライフサイエンス及び宇宙医学分野の国際公募研究」

1. 国際宇宙ステーション長期滞在宇宙飛行士への筋骨格系廃用性萎縮に対するハイブリッド訓練法の適応

志波 直人1,松瀬 博夫1,吉光 一浩1,田川 善彦2,稲田 智久2,山田 深3,大島 博3

1久留米大学リハビリテーションセンター
2九州工業大学機械知能工学科
3宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室

Indication of the hybrid training method for the long term staying astronauts in ISS

Naoto Shiba1, Hiroo Matsuse1, Kazuhiro Yoshimitsu1, Yoshihiko Tagawa2, Tomohisa Inada2, Shin Yamada3,Hiroshi Ohshima3

1Kurume University Rehabilitation Center
2Kyushu Institute of Technology
3Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency

【研究の背景と目的】 宇宙飛行士に筋骨格系廃用萎縮が起こることが広く知られており,微小重力下で宇宙飛行士の筋骨格は著しく萎縮する。我々は,無重力状態での宇宙飛行士の筋骨格系を維持するために,動作時に拮抗筋に電気刺激を行い,主動作筋の随意収縮に運動抵抗を与えるハイブリッドトレーニングシステム(HTS)を開発した。言いかえれば,重力の代わりに電気刺激により運動抵抗を発生させるものである。HTSはコンパクトで,従来の機器のような大がかりの身体固定は必要としない
 【これまで実施した内容と結果】 トレーニング効果の検証:刺激装置,コントローラー,電源(充電式バッテリー),電線,電極,関節運動感知センサよりなる汎用装置を作製し効果検証に臨んだ。 健常者での12週間の長期訓練実験で,肘屈伸運動でおおよそ30%の筋力増強と15%の筋断面積増大が得られ,手関節背屈筋力は25%,同伸筋群筋断面積は11%増加し,手先の細かな動作などに有害事象は認められなかった。同じく,6週間の膝屈伸運動では最大33%の膝伸展筋力増強効果が得られ,さらに条件などの再設定で,より低電気刺激で,安定した筋力増強効果が得られることも解った。
 宇宙飛行士用装置試作と航空機を用いた微小重力での動作検証:宇宙飛行士のため,VR装置とともに,着衣として使用可能な装置を開発した。効果検証実験の結果を受けて,着衣に機器を取り付けた着衣型装置を試作した。これに合わせて,さらに効果的トレーニングを行うためバーチャルリアリティー(VR)装置を開発した。航空機の放物線飛行による20秒間程度の微小重力実験によって,機器は正常に作動し想定した運動が可能であること,また微小重力下でもVRシステムによる指示通りの運動が容易となった。これらから,宇宙の無重力環境での使用が可能であると考えられる。
 【ISSへの搭載に向けて】 HTSは宇宙飛行士に対する筋骨格系廃用対策の一つの有力な方法と考えられるが,長期の宇宙空間での検証実験は未だ行われていない。今回の提案の目的は,ISSで長期間滞在する宇宙飛行士へのHTSの適応を確認することである。
 【今後の展望】 2010年度国際福祉機器展にJAXAから参考出品した。現在,並行して実用化準備が進められている。今後は宇宙飛行士用装置を改良し宇宙空間長期滞在で使用して効果を検証するとともに,その成果を臨床,福祉の現場へと還元したい。