宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 82, 2010

一般演題 

38. 低圧環境下における気管チューブのカフ圧の変動について

蔵本 浩一郎,吉村 一克

航空医学実験隊

The change of the endotracheal tube cuff pressure under the hypobaric environment

Koichiro Kuramoto, Kazuyoshi Yoshimura

Aeromedical Laboratory

【はじめに】 気管チューブのカフ内圧は気管粘膜の損傷を起こさないために,気管壁毛細血管圧(27〜34 cmH2O)以下を維持する必要がある一方,航空患者搬送時には高度上昇に伴う機内気圧減少によりカフ内圧が増加することが知られている。そこで我々は,気管チューブのカフ内圧とカフが及ぼす接触面圧との関係を1気圧状態において調べるとともに,空気または水でカフを充填し,気圧変化の接触面圧に対する影響について検討したので報告する。
 【方法】 アクリル製の筒内面に接触圧センサを取り付け,市販の気管チューブを挿入し1気圧状態でカフ内にシリンジで空気または水を0.2 mlずつ注入し,注入量による接触面圧及びカフ内圧の変化を測定(実験1)した。さらに,航空医学実験隊が保有する低圧訓練室内において高度0〜8,000 ftの低圧環境を再現し,気圧の減少に伴うカフ内圧及び接触面圧の変化を測定(実験2)した。この際カフ内を空気のみで充填(A群),空気1:水4で充填(A+W群),水のみで充填(W群)の3群を作成,比較検討した。
 【結果】 実験1では,空気と水のどちらを注入した場合でも,カフが内壁に完全に接触した後はカフ内圧と接触面圧はほぼ等しいことが確認できた。また,水を注入した場合の方がカフ内圧および接触面圧がより急激に上昇した。実験2ではA群及びA+W群では高度の上昇に伴い直線的な圧増加を認めたものの,W群では圧の増加はほとんど認められなかった。1,000 ftあたりの接触面圧の変化はA群では15.5 cmH2O,A+W群では3 cmH2O,W群では0.2 cmH2Oであった。
 【結語】 水でカフ内を完全に充填することで,気圧の減少による接触面圧の増加は防止できるが,水の方が空気よりも微少な注入量で圧力が大きく変化するため,圧力の微調整が難しい。したがって気管挿管が必要な患者の航空搬送においては,カフ内を空気のみで充填し,高度が変化する場合には頻回にカフ内圧をモニタし,適切な圧に調整することが必要である。