宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 81, 2010

一般演題 

37. 仰臥位浸水時の腹部大静脈横断面積および脈波伝播速度の変化

小野寺 昇1,吉岡 哲2,西村 一樹3,山口 英峰4,小野 くみ子5,関 和俊6,高原 皓全7

1川崎医療福祉大学
2香川大学医学部
3広島工業大学
4吉備国際大学
5神戸大学大学院 保健学研究科
6流通科学大学
7川崎医療福祉大学大学院

Changes in the venous return and arterial stiffness during water immersion in supine position

Sho Onodera1, Akira Yoshioka2, Kazuki Nishimura3, Hidetaka Yamaguchi4, Kumiko Ono5, Kazutoshi Seki6, Terumasa Takahara7

1Kawasaki University of Medical Welfare
2Faculty of Medicine, Kagawa University
3Hiroshima Institute of Technology
4KIBI International University
5Kobe University Graduate School of Health of Sciences
6University of Marketing and Distribution Sciences
7Graduate School, Kawasaki University of Medical Welfare

【背景】 立位浸水時の腹部大静脈横断面積は,陸上立位時と比較して増大し,水位に依存することを明らかにした(Onodera S et al, 2001)。この知見から,浸水によって生じる静脈還流の促進に,水の物理的特性である水圧および浮力が影響していると推察した。さらに仰臥位浸水時の腹部大静脈横断面積は,陸上仰臥位姿勢時と比較して,高値を示し,一回拍出量は増大傾向を示すことを明らかにした(Onodera S et al, 2007,小野寺ら,2007)。すなわち,浅い水深であっても静脈還流の促進が誘発されるものと推察した。動脈伸展性の指標である脈波伝播速度に,収縮期血圧が影響することから,仰臥位浸水に伴う前負荷の増大が脈波伝播速度に影響するものと仮説を立てた。
 【目的】 仰臥位浸水時の腹部大静脈横断面積および脈波伝播速度を明らかにした。
 【方法】 被験者は,健康成人男性を6名(年齢:22.5±2.3歳,身長:172.5±4.0 cm,体重:65.3±13.5 kg)であった。全ての被験者には,実験内容に関する説明を行い,実験前にインフォームドコンセントを実施し,研究参加の同意を得た。測定条件は,仰臥位浸水条件(水温:30.5°C)および陸上仰臥位条件(室温:27.8°C)の2条件とした。各条件下で,心拍数,脈波伝播速度および腹部大静脈横断面積を測定した。脈波伝播速度の測定には血圧脈波検査装置(Form PWV/ABI:日本コーリン)を用い,四肢の脈波形から導出される上腕-足首間脈波伝播速度(brachial-ankle pulse wave velocity:baPWV)を算出した。腹部大静脈横断図の導出は,超音波エコー(180PLUS:SonoSite)を用いて行った。呼息時の横断図を静止画像化し,デジタルビデオコンバータを介してパーソナルコンピュータに取り込んだのち,画像解析ソフト(NIH Image)を用いて算出した。各条件間の差の検定には対応ありのT-testを用い,危険率5%未満を有意とした。
 【結果および考察】 仰臥位浸水条件の心拍数(58.0±9.8 bpm)は,陸上仰臥位条件(67.7±10.6 bpm)と比較して,有意に低値を示した(P<0.05)。仰臥位浸水条件のbaPWV(1,221.5±153.0 cm/s)は,陸上仰臥位条件(1,105.6±104.3 cm/s)と比較して,有意に高値を示した(P<0.05)。仰臥位浸水条件の腹部大静脈横断面積(4.15±0.68 cm2)は,陸上仰臥位条件(3.33±0.66 cm2)と比較して,有意に高値を示した(P<0.05)。これらの知見から,仰臥位浸水に伴う静脈還流の促進が,脈波伝播速度に影響する可能性を示唆した。