宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 80, 2010

一般演題 

36. スキューバダイビングにて耳症状を生じた患者の耳鼻咽喉科所見について─耳管機能検査を中心に─

北島 尚治,北島 明美

北島耳鼻咽喉科医院

A study of the Eustachian tube function in scuba diver

NaoharuKitajima, Akemi Kitajima

Kitajima ENT Clinic

近年,海洋スポーツの普及によるスキューバダイビング人口の増加につれダイビングに伴うトラブルが増加傾向にある。そのおよそ9割は耳鼻咽喉科疾患といわれるが,実際にその対応をしている施設は少ない。当院では平成20年よりスキューバダイビングにおける耳鼻咽喉科トラブルへの対応をはじめ,いくつかの知見を得たので報告する。
 症例は当院外来を受診したダイビング中あるいは後に中耳炎や難聴,めまいなどの耳症状を訴えた30例(男性13名·女性17名;35.0±9.7歳)である。耳管機能障害の既往のない44例(男性14名·女性30名;41.1±11.9歳)を対照とし,対照例の結果をもとに当院での耳管機能の正常域を決定した。受診時,鼓膜,鼻腔および眼振所見を確認後,聴覚検査および耳管機能検査を施行した。耳管機能検査には音響法とインピーダンス法を用いた。
 8例が難聴·めまいを訴え,うち2例が鼓膜穿孔を認めた。患者の7割にアレルギー性鼻炎を認めた。受診時(鼓膜穿孔例は穿孔閉鎖時)の平均聴力で左右差を10 dB以上認めた症例は2例であった。ティンパノグラムでは全例が両側共にA型を示したが,正常例と比較し耳管機能(音響法)は有意にダイバー群が低く,ティンパノグラムのみではダイバーの耳管機能評価が困難であることが確認された。音響法のみで6割,インピーダンス法を併用すると9割に耳管狭窄症が診断可能であった。耳症状は片耳のみの場合と両耳に生じる場合とがあり,片耳の場合に鼓膜穿孔やめまい·難聴などの内耳障害を生じやすく,両耳の場合ではより軽症ですむ傾向があった。耳管狭窄症は自覚された側とは対側に生じていることもあり,このような症例では耳管機能の左右差が大きい傾向があった。耳管機能不良耳への耳抜きに過剰な加圧をしたため,その圧が耳管機能良好耳へも影響して圧外傷を生じたと考えられる。耳管開放症に伴う内耳障害は,過剰な中耳圧変動が呼吸性鼓膜移動を生じ,これが耳小骨-蝸牛への過大な圧力を引き起こした結果,内耳障害が発現すると言われており,今回の対側発症例でも同様の起序が働いていると考えた。ダイビングにおける耳管機能障害の影響は検査数値のみでなく左右差が重要であり,この上でアレルギー性鼻炎の有無や水中スキルの未熟さなどがそれを助長し耳症状に至るのであろう。
 耳管機能検査を的確に行うことで中耳トラブルを予期し事故を予防できると考えた。