宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 2010

一般演題 

35. 抗インフルエンザウイルス活性を有するキトサン/ 銀ナノ粒子複合材料

森 康貴1,3,藤田 真敬2,辻本 由希子1,福島 功二1,吉村 一克1

1航空自衛隊航空医学実験隊
2防衛医科大学校防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門
3防衛医科大学校防衛医学研究センター医療工学研究部門

Chitosan/silver nanoparticle composites with anti-influenza virus activity

Yasutaka Mori1,3, Masanori Fujita2, Yukiko Tsujimoto1, Kouji Fukushima1, Kazuyoshi Yoshimura1

1Aeromedical Laboratory, Japan Air Self-Defense Force
2Division of Environmental Medicine, Research Institute, National Defense Medical College
3Division of Biomedical Engineering, Research Institute, National Defense Medical College

【緒言】 2009年春から流行した新型インフルエンザに代表されるように,新たな感染症の発生とその拡大は,医療技術の発達した今日においても脅威である。特に航空機による世界規模の移動が広く普及する中,世界各地で発生する感染症の拡散が危惧される。
 空港,港湾等における水際対策は島国において特に重要とされる。航空機や空港内での消毒剤の噴霧は高い消毒効果が得られる一方,人体への悪影響や衣類,設備器材の劣化という弊害を生じる。抗菌材料による機内や空港内設備,座席,換気装置のフィルター,乗員の衣服やマスクの製造使用はこれらの弊害無く病原体の拡散リスクを減らすことができる。このため各種抗菌剤の開発が近年盛んに行われているが,高い抗ウイルス活性を示す抗菌性材料の報告は無い。
 我々は多くの細菌,カビ,ウイルスに対して強い抗菌性を有する銀ナノ粒子に着目し,同様に抗菌活性の強いキトサンに,均一に固定化することに成功した。本発表ではキトサン/ 銀ナノ粒子複合体の強力な抗インフルエンザウイルス活性と幅広い応用の可能性について報告する。
 【実験】 銀ナノ粒子は,平均粒径3.48±1.83,6.53±1.78および12.9±2.50 nmの水分散液(約70 μg/ml)を用いた。キトサン/銀ナノ粒子複合材料は,キトサン水溶液(10 mg/ml, 平均分子量54 kg/mol)と銀ナノ粒子分散液を混合した後,5 M NaOH水溶液にて沈殿させ,リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて洗浄して得た。複合材料の抗インフルエンザ性の評価には,A/PR/8/34 (H1N1)型インフルエンザウイルスを用い,1000 TCID50の感染価を有するウイルス液をPBS中で室温にて1時間接触させた後,上清の感染価を被感染細胞にMDCK細胞を用いて測定した。
 【結果および考察】 キトサン/銀ナノ粒子複合材料は,導入する銀ナノ粒子の量に依存して黄色〜褐色の粉体として得られた。複合材料の透過型電子顕微鏡観察では,銀ナノ粒子がキトサンの基質中に凝集せずに分散して導入されていることが確認された。
 キトサン単独では抗インフルエンザウイルス活性を有さないのに対し,銀ナノ粒子を導入してキトサン/銀ナノ粒子複合材料とすることで抗インフルエンザウイルス活性が発現した。複合材料の抗インフルエンザウイルス活性は,導入した銀ナノ粒子の量が増加するほど高くなった。また,銀ナノ粒子の導入量が同一の場合,本研究で用いた銀ナノ粒子の粒径の範囲では粒径が小さいほど強い活性を示した。
 これまでに研究された銀ナノ粒子の抗ウイルス性の発現機構は,銀ナノ粒子がウイルスのレセプターサイトへの吸着により発現すると考えられており,本研究で合成したキトサン/銀ナノ粒子複合材料も同様のメカニズムであると考えられるが,性能を的確に制御するためには詳細なメカニズムの検討が必要だと考えられる。