宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 71, 2010

一般演題 

27. エアコンから発生する帯電微細水分粒子が皮膚の保水性および「はり」へ及ぼす効果

大野 秀夫,西村 直記,岩瀬 敏,菅屋 潤壹

愛知医科大学 医学部 生理学第2 講座

Effects of ionized water vapor on occupants’ skin viscoelasticity during air conditioning

Hideo Ohno, Naoki Nishimura, Satoshi Iwase, Junichi Sugenoya

The Second Department of Physiology, School of Medicine, Aichi Medical University

【はじめに】 皮膚の「はり」は皮膚の粘性および弾性要素を含み,しかも皮膚の水分量と関係することが報告されている。エアコン使用時に発生する帯電微細水分粒子(以降,ミストと称する)が皮膚の潤いおよび「はり」に及ぼす影響を実験的に検討した。
 【実験方法】 実験は健常な成人女性 (N=19,41.1±1.2歳)を被験者とし,スウエット上下,綿ソックス条件で2010年6月に愛知医科大学人工気候室で実施した。実験は本学倫理委員会の承認を得ている。被験者は実験開始30分前に到着し実験室(室温24°C,相対湿度35%)で着替え後,実験を開始した。被験者はミスト発生なし条件で60分間滞在後,ミスト発生あり(ミスト群),ミスト発生なし(コントロール群)のいずれかの条件下でさらに120分間,計180分間滞在した。被験者は1日1条件のみとし,両条件に参加した。実験開始後60分経過時点で前額·外眼角·頬における吸引法による皮膚変位量および戻り量,TEWL,皮膚コンダクタンスを測定し(初期値),その後30分毎に計5回測定した。皮膚変位量は弾性および粘性要素を含み,戻り率(戻り量/変位量)には弾性要素が影響し,いずれも美容科学領域ではりの指標として用いられる。
 【結果および考察】 初期値(60分値)を100%として以降,各時刻の測定値を初期値に対する変化率で示す。
 TEWL:コントロール群ではすべての部位において90分で初期値から有意に減少しており(前額および外眼角P<0.05,頬P<0.01),その後は徐々に安定した。ミスト群ではすべての部位で初期値を維持し,コントロール群との差は有意であった(P<0.001)。皮膚へ吸着したミストの一部が皮膚表面で空気中の水分子を引き寄せて水滴となり蒸散したと解釈される。
 皮膚コンダクタンス:コントロール群ではいずれの部位においても減少後,ほぼ横ばいに入った。特に,前額の90分における減少は有意であった(P<0.01)。ミスト群は外眼角および頬において増加後,初期値へ戻った。前額は情動の影響とも思える微変動後,初期値へ戻った。ミストは皮膚表面に吸着した分がバリアを形成し,残りの分は角質層内へ浸透する二つの効果が併せて角質層の水和に寄与したと考えられる。皮膚コンダクタンスおよびTEWLのこれらの結果からミスト条件下で角質層の潤いが高まったといえる。
 皮膚変位量および戻り率:コントロール群ではいずれの部位でも初期値から減少後, 横ばいになった。ミスト群では増加,あるいは増加後に初期値へ戻った。両群間の差は前額,頬で有意(P<0.05,P<0.01)であった。戻り率はコントロール条件では前額および頬が減少後横ばい,外眼角はほぼ横ばいであった。ミスト群ではいずれも増加後横ばいになり,前額および頬でコントロール群と有意な差であった(P<0.05)。皮膚変位量の増加はミストによって角質層が軟化し吸引されやすくなったためと考えられる,また戻り率も高かったことから皮膚変位量増加は少なからず弾性要素も含んでいると考えられる。
 【まとめ】 エアコン使用時に発生するミストは皮膚の潤い保持およびはりの向上に寄与することが観察された。