宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 68, 2010

一般演題 

24. 骨格筋の萎縮とその後の再成長に伴うadiponectinの発現

後藤 勝正1,2,大野 善隆2,杉浦 崇夫3,大平 充宣4,吉岡 利忠5

1豊橋創造大学大学院 健康科学研究科
2豊橋創造大学 保健医療学部
3山口大学 教育学部
4大阪大学大学院 医学系研究科
5弘前学院大学

Changes in adiponectin expressions during unloading and reloading of skeletal muscle in mice

Katsumasa Goto1,2, Yoshitaka Ohno2, Takao Sugiura3, Yoshinobu Ohira4, Toshitada Yoshioka5

1Department of Physiology, Graduate School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2Laboratory of Physiology, School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
3Faculty of Education, Yamaguchi University
4Graduate School of Medicine, Osaka University
5Hirosaki Gakuin University

無重量環境への曝露やベッドレストなどによる不活動や骨格筋に対する荷重除去は骨格筋に萎縮をもたらし,筋力低下など筋機能を低下させる。さらに骨格筋の萎縮は,基礎代謝量の減少や骨萎縮を招来することはもちろん,毛細血管床を減少させて循環血液量を低下させるなど,生活の質(QOL)を大きく低下させる。したがって,骨格筋萎縮を予防するためのカウンターメジャーの早期開発が望まれている。一方,骨格筋の萎縮が原因となる身体活動量の低下は,メタボリックシンドロームの誘発要因になる。これについては,あくまでも身体活動に伴うエネルギー消費量の減少が引き金となって,代謝が修飾されることが誘因として考えられている。例えば,身体活動量の低下は脂肪細胞由来のアディポカインに分泌異常が起こることが報告されている。最近,我々はアディポカインであるadiponectinが骨格筋組織内に発現していることを見出した。しかし,骨格筋組織内adiponectinの発現量に関する知見はほとんどなく,骨格筋の萎縮やその後の再成長に伴う変化は明らかではない。そこで本研究では,荷重除去による骨格筋の萎縮とその後の再成長に伴う骨格筋組織内adiponectin発現量を解析し,アディポカイン分泌器官としての骨格筋の可能性についてマウス後肢懸垂モデルを用いて検討した。実験には,C57BL/6J雄性マウスを用い,骨格筋組織内のadiponectin発現量については,タンパク質はウェスタンブロッティング法により,mRNAはリアルタイムPCR法(インターカレーター法)によりそれぞれ解析した。荷重除去による筋萎縮の影響を検討するために,マウスに後肢懸垂を2週間負荷した。2週間の荷重除去によりヒラメ筋が有意に萎縮した(p<0.05)。このヒラメ筋萎縮に伴い,骨格筋組織内adiponectin発現量の低下が認められた。後肢懸垂を解除した後に通常飼育に戻すと萎縮したヒラメ筋は再成長したが,この再成長によりadiponectin発現量は有意に増大することが明らかとなった(p<0.05)。一方,共同筋腱切除によりヒラメ筋に代償性肥大を引き起こすと,adiponectin発現量が増大することがタンパクおよびmRNAレベルで確認された。以上の結果から,骨格筋収縮の維持は,血液中アディポカイン濃度を介して,全身脂質代謝の維持の一部を担っていることが示唆された。尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会による審査·承認を受けて実施された。本研究の一部は,文部省科学研究費(B, 20300218;A, 22240071;S, 19100009)ならびに日本私立学校振興·共済事業団による学術振興資金を受けて実施された。