宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 66, 2010

一般演題 

22. メダカを対象とした骨格筋解析ならびに心電図解析

寺田 昌弘1,浅香 智美1,新堀 真希1,河野 史倫2,中尾 玲子1,岩崎 賢一1,3,須藤 正道1,4,向井 千秋1,大平 充宣2

1宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室
2大阪大学大学院 医学系研究科
3日本大学医学部 社会医学系衛生学分野
4東京慈恵会医科大学 宇宙航空医学研究室

The analysis of skeletal muscle physiolgy and electrocardiogram on medaka fish

Masahiro Terada1, Tomomi Watanabe-Asaka1, Maki Niihori1, Fuminori Kawano2, Reiko Nakao1, Ken-ichi Iwasaki1,3, Masamichi Sudoh1,4, Chiaki Mukai1, Yoshinobu Ohira2

1Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency
2Graduate School of Medicine, Osaka University
3Division of Aerospace Medicine, Department of Hygiene and Space Medicine Nihon University School of Medicine
4Division of Aerospace Medicine, The Jikei University School of Medicine

JAXA宇宙医学生物学研究室では,ヒトでの臨床研究に加えてメダカをモデル生物として利用している。メダカは,宇宙で長期飼育可能でかつ世代交代を行える脊椎動物であり,今後軌道上実験も予定されている。そこで本研究では,微小重力環境での宇宙飛行に生じる筋委縮変化に対するカウンターメジャーを開発するためにメダカは骨格筋モデル生物になり得るか,更に自律神経系を介した調節機構を解明するため心機能測定は可能であるか,を検討する。
 自発運動の変化による骨格筋変化を観察するために,胸鰭を制御してる骨格筋を対象とした。そこで,筋活動を抑制する群として胸鰭を切断した個体ならびに胸鰭欠損変異体(PL)を用いて,野生型メダカの胸鰭付近の骨格筋と比較する。本実験では,比較のためにメダカ骨格筋において各種解析方法が可能であるのかの検証実験を行った。メダカ骨格筋凍結横断切片を作製して,遅筋ならびに速筋線維を検出できるかを検証するために筋タイプ抗体染色·筋核染色·基底膜染色を行い,筋線維横断面積を測定した。また,メダカ骨格筋から単一筋線維を単離して, 筋核染色·神経筋接合部染色を行い,筋線維横断面積ならびに筋核数測定を行った。抗体染色では,遅筋·速筋の識別のための明瞭な染色像が得られなかった。しかし,筋核染色では明確に染色できた。そこで,遅筋線維は速筋線維に比較して筋核が多いという基準によって,筋線維周囲の筋核数で遅筋·速筋の区別を行い,筋線維横断面積を測定した。その結果,メダカにおいては遅筋線維は速筋線維に比較して著しく小さいことが判明した。
 また,無麻酔下でのメダカ心臓における各誘導(I誘導·II誘導·III誘導·NASA誘導)での波形を比較するために,メダカに針電極を挿入し心電図測定を実施した。メダカを無麻酔下で仰向けにし,実体顕微鏡下で各誘導条件になるように2本の針電極をメダカ心臓を挟むように挿入した。波形記録は,PowerLab (ADInstruments)を用いて行った。I·II·III誘導では明確な筋電図波形の変化は見られなかったが,NASA誘導においては波形シグナルが著しく上昇した。
 以上の結果から,メダカ遅筋線維は速筋線維と比較し非常に小さいが,哺乳類と形態的な特徴はほぼ一致しており,メダカ骨格筋は評価可能であると考えられる。また,メダカにおいても筋電図測定が可能であり,特にNASA誘導を用いれば明瞭な筋電図波形が取得でき心臓をターゲットとした自律神経系の解析も可能であると思われる。