宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 65, 2010

一般演題 

21. メダカを用いたライブ·イメージングによる心拍変動解析

浅香 智美1,新堀 真希1,寺田 昌弘1,岩崎 賢一1,2,須藤 正道1,3,向井 千秋1

1独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室
2日本大学医学部 社会医学系衛生学分野
3東京慈恵会医科大学 宇宙航空医学研究室

Heart rate analysis in Medaka via live-imaging technique

Tomomi Watanabe-Asaka1, Maki Niihori1, Masahiro Terada1, Ken-ichi Iwasaki1,2, Masamichi Sudoh1,3, Chiaki Mukai1

1Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency
2Department of Social Medicine Division of Hygiene/Space Medicine, Nihon University School of Medicine
3Division of Aerospace Medicine, The Jikei University School of Medicine

【はじめに】 国際宇宙ステーションが本格起動し,宇宙飛行士の長期滞在が実現した。宇宙環境において宇宙飛行士が受けるストレス影響の理解と環境改善のための基礎データ取得は,宇宙環境における健康管理のために今後ますます重要となる。心臓は,宇宙環境をはじめとする外界のストレス影響に対して,自律神経系を介した拍動数の変化等で応答する器官であり,緊張などの生理的影響を評価する上で非常に有効である。
 メダカは,宇宙でその一生を観察できる脊椎動物であり,遺伝学的手法が容易であるなどの利点を持つ。また,透明な発生期や成魚でも色素欠損の系統を有しており,腹膜の透明な系統(SK2)を用いることにより非侵襲的にメダカ体内を観察できる。我々は,宇宙環境ストレスの生体への影響を心臓自律神経系への影響から評価すべく,メダカ心拍変動をライブ·イメージングの技術を用いて解析している。
 【測定方法】 実体顕微鏡を逆さにしてメダカに対する負荷を軽減し,心電図に近い時間解像度のデータを取得するために高速度カメラを用いてデータを取得した。今回は,系の可能性を検証するために,無麻酔コントロールに加え,MS222麻酔,アセチルコリンにそれぞれ水溶液中で暴露させ,予備実験を実施した。また,心臓発達期のメダカ胚も併せて実施した。撮影時間は,5分程度までとした。得られた画像は,Final Cut Pro及びBohbohを解析ソフトとして利用し,抽出した心拍をDaDispにより心拍変動解析を行った。
 【結果】 高速度画像の心臓部分の輝度は,心拍の動きに加えてエラ呼吸の動きを含むことから,エラ呼吸に伴う輝度を差し引くことにより,心拍を抽出することに成功した。また,上述の手法を用いてメダカ心拍を評価することにより,以下の結果を得た。1)無麻酔下において160 bpm前後の心拍が検出された。2)心拍変動解析により,1 Hz以下の周波数帯にピークを有する心拍変動を検出することができた。3)この心拍変動は,ふ化前の胚において認められなかった。4)一方,副交感神経亢進薬であるアセチルコリンの暴露下では,顕著に増加した。5)MS222麻酔下においては著しく低下する傾向を示した。
 【考察】 本研究では,ライブ·イメージングによりメダカの心拍を観察する系を確立できた。また,得られた画像を元にした心拍変動解析により自律神経影響を評価できること,特に,アセチルコリン暴露における変化から,副交感神経の関与が強く示唆された。今後は,副交感神経作用薬に加えて,交感神経作用薬を投与し,自律神経機能の記述を行い,過重力など各種ストレス環境下での体内動態の評価に加えて,軌道上での生理的変化を解析する予定である。
 本研究は,東京大学 三谷啓志教授及びその教室員,お茶の水女子大学 馬場昭次名誉教授に協力いただいている。