宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 63, 2010

一般演題 

19. 予備呼吸不要な船外活動用宇宙服グローブの開発と検証

田中 邦彦

岐阜医療科学大学 保健科学部 放射線技術学科

Development and verification of a glove for extravehicular activity without prebreathing

Kunihiko Tanaka

Department of Radiotechnology, Gifu University of Medical Science

現在,アメリカ合衆国で使用されている船外活動用宇宙服(以下,宇宙服)は純酸素で220 mmHg,約0.3気圧に与圧されている。この圧は地上1気圧に比して非常に低圧であるため宇宙飛行士は予備呼吸を行い,減圧症を予防している。高圧にすれば減圧症の危険は低下するが外部の高度真空との圧較差によって宇宙服はさらに膨張し,可動性の低下を余儀なくされる。しかし逆に高い可動性さえ確保できるのであれば,高圧で与圧することができ,減圧症の危険も低下すると考えられる。これまでに我々は伸縮性素材を用いることで圧較差0.3気圧において高い可動性が得られることを証明してきた。今回,静脈内気泡ひいては減圧症を引き起こさない490 mmHg,0.65気圧の伸縮性グローブと,現行の0.3気圧の非伸縮性グローブで可動性を比較した。健康被検者6名の右手で第2指近位指節間関節可動域,浅指屈筋筋電図振幅を比較したところ,可動域は同等であったが筋電図振幅は高い圧較差にも関わらず伸縮性グローブの方が有意に小さかった。このことから,伸縮性素材を使用することによって予備呼吸不要かつ可動性の高い宇宙服が開発可能であると考えられた。