宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 61, 2010

一般演題 

17. 長期宇宙滞在中の心機能低下を予防する運動療法に関する研究

松尾 知明,山田 深,大島 博,向井 千秋

宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室

An exercise program to prevent deterioration of cardiac function during long-term space flight

Tomoaki Matsuo, Shin Yamada, Hiroshi Ohshima, Chiaki Mukai

Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency

宇宙での微小重力環境下では飛行士の全身持久性体力が低下する。体液シフトや身体活動の低下により心臓への負荷が減少し,心機能が低下することがその一因である。宇宙滞在時の心臓への負荷減少は,心萎縮,拡張機能障害,起立性低血圧症,さらには深刻な不整脈を惹起する可能性があるため,長期滞在ミッションでは特にその対策が必要となる。また,体力や心機能の低下だけでなく,宇宙滞在中に顕著な体重減少を生じる飛行士も少なくない。摂取エネルギー量が消費エネルギー量を下回るエネルギーのインバランスがその主要因である。エネルギー消費を著しく増大させるような運動プログラムは,長期ミッション遂行のマイナス要因となる可能性がある。そのため,今後の長期宇宙滞在に向けては,短時間で効率的,効果的に体力低下,心機能低下を防止できる運動プログラムがこれまで以上に必要となる。国際宇宙ステーションにおける現行の運動プログラムは,運動時間を短縮させたり消費エネルギー量を抑制させたりする点で改善の余地がある。高強度インターバル有酸素運動トレーニング(High-intensity Interval Aerobic Training:HIAT)はこれらの課題の改善策として有望である。運動強度を高く設定するHIATは,中程度の定常負荷で持続的な運動を一定時間(30〜90分間)おこなう持久的トレーニングと比較すると,全身持久性体力の改善効果が高いうえ,心臓への負荷が高いため心機能向上効果も期待できる。さらにHIATは運動時間を短く設定できるため,消費エネルギー量の増加を抑制できる可能性を有する。JAXAでは本年度よりHIATに係る研究に着手した。今後,その成果を報告していきたい。