宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 53, 2010

一般演題 

9. パンデミックインフルエンザ2009:本邦における検疫成果と統計学的考察

藤田 真敬1,四ノ宮 成祥2,鈴木 信哉1,松尾 洋孝2,緒方 克彦3

1防衛医科大学校 研究センター異常環境衛生研究部門
2防衛医科大学校 分子生体制御学講座
3防衛医科大学校 幹事

Statistical analysis of quarantine for pandemic 2009 H1N1 influenza in Japan

Masanori Fujita1, Nariyoshi Shinomiya2, Shinya Suzuki1, Hirotaka Matsuo2, Katsuhiko Ogata3

1Division of Environmental Medicine, Research Institute, National Defense Medical College
2Department of Integrative Physiology and Bio-Nano Medicine, National Defense Medical College
3Vice President for Military Affairs, National Defense Medical College

2009年3月から世界的に流行したインフルエンザに対し,国内では検疫の強化が決定し4月28日から5月22日まで,メキシコ,米国,カナダからの航空便に機内検疫が行われ,患者数増加に絡み6月20日には検疫が緩和された。
 検疫の効果検証のため,公開データを元に統計学的集計を試みた。空港で患者と診断される割合は0.8%,帰宅後に初めて患者と診断されるのは21.5%,市中感染者は77.7%であった。
 国内患者数の分布は二峰性を示し,後の分析によれば,5月中旬の最初のピークである兵庫地区の流行株は月末には終息し,5月末以降国内での流行は別株であった。5月末以降,本邦において流行した同株のインフルエンザ患者の推移を地区別(北海道,東北,関東,中部,近畿,中国,四国,九州(含,沖縄))に分析した。総患者数と海外渡航癧があり,空港検疫を通過して自宅発症した患者数(人口100万人比)とは非常に強い逆相関を示した(相関係数=-0.853, p=0.007)。感染症における潜伏期の存在から空港検疫における診断例は少なく1次的効果は大きくないものの,2次的な効果をもたらすことが示唆された。また,検疫の緩和時期を境に前後の患者数の増加率を集計すると,患者数の増加傾向が強くなることは興味深い結果であった。検疫の効果については様々な学術的見解が見られる。我が国のような島国においては,入国経路が比較的限定される。空港における検疫通過者は個人的な注意喚起や教育的アドバイスを受け,保健所による追跡調査,健康監視の対象となる。これらの検疫の総合効果により流行期間の2次感染の予防に貢献したと考えている。
 2009年に流行したパンデミックインフルエンザ患者数と空港検疫との関連を統計学的に解析考察した。