宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 51, 2010

一般演題 

7. 空の旅と旅行者血栓症(第2報)

浅野 悦洋,村越 秀光,岩瀬 龍之,赤沼 雅彦

日本医科大学成田国際空港クリニック

The second report of air travel and pulmonary thrombo embolism at Narita Airport Clinic

Yoshihiro Asano, Hidemitsu Murakoshi, Tatsuyuki Iwase, Masahiko Akanuma

Nippon Medical School Narita International Airport Clinic

【緒言】 航空機搭乗に起因すると考えられる旅行者血栓症について,日本医科大学成田国際空港クリニックで調査し,重症度年度別傾向,機内座席について追加検討した。
 【対象】 '92年12月より '10年3月までの17年4ヶ月で,症例総数257,718例,その内訳は空港関係者177,786例(69.0%),旅行者69,881例(27.1%),その他10,051例(3.9%),外国人20,485例(8.0%),平均症例数(日)40.7例,救急症例9,104例(3.5%)だった。このうち,気分不快,呼吸困難,失神,不穏状態をきたし,救急医療を必要とした旅行者血栓症,疑い症例を対象とした。
 【結果】 症例総数の0.06%,154例に旅行者血栓症が疑われた。当空港クリニックで救急初療を施行後,ドクターヘリもしくは救急車で本学千葉北総病院または成田赤十字病院へ転院搬送し,確定診断されたのは85例(55.2%),男女比28:57,平均年齢60.4±13.3歳で,同疑い例は69例(44.8%),男女比33:36,平均年齢51.7±14.1歳で症例中死亡は30例(20%)だった。また,航空機に起因する旅行者血栓症死亡例は,死亡93例のうち30例(32.2%)であり,以下急性心筋梗塞23例(24.7%),原因不明の心肺停止11例(11.8%),脳血管障害8例(8.6%),癌手術後6例(6.4%),大動脈瘤切迫破裂4例(4.3%),多発外傷3例(3.2%),呼吸不全2例(2.2%),食道静脈瘤破裂2例(2.2%),感染症2例(2.2%),窒息1例(1.1%),薬物中毒1例(1.1%)となっていた。旅行者血栓症154例の平均飛行時間は約11時間,飛行距離7,500〜9,999 km 67例(43.5%),10,000 km以上42例(27.3%),5,000〜7,499 km 16例(10.4%),2,500〜4,999 km 7例(4.5%),2,500 km以下7例(4.5%),不明15例(10.0%),平均飛行距離は約9,000 km,旅行者血栓症は旅客百万人に対して0.53例だった。機内座席発症別では,エコノミークラス124例(80.5%),ビジネスクラス7例(4.7%),コックピット1例(0.7%),不明21例(14.0%)だった。旅行者血栓症重症度・年度別傾向では, '92年度1例(重症1), '93年度9例(死亡4,重症5), '94年度5例(重症5), '95年度8例(死亡8,重症4,中等症2), '96年度7例(死亡3,中等症4), '97年度10例(死亡5,重篤2,重症2,中等症1), '98年度14例(死亡4,重症8,中等症2), '99年度14例(死亡4,重篤2,重症6,中等症2), '00年度10例(死亡4,重症4,中等症2), '01年度5例(死亡2,軽症3), '02年度7例(死亡2,重症1,中等症3,軽症1), '03年度6例(重症3,中等症3), '04年度10例(重症1,中等症9), '05年度7例(重症1,中等症4,軽症2), '06年度12例(中等症2,軽症10), '07年度21例(重症6,中等症5,軽症10), '08年度4例(中等症2,軽症2), '09年度4例(中等症3,軽症1)だった。
 【考察】 当空港クリニックでの旅行者血栓症の平均飛行時間は約11時間,平均飛行距離は9,000 kmだった。空の旅による長時間,長距離のフライトでは,旅行前からの体調管理に十分注意し,かかりつけ医のアドバイスによる無理のない旅行をすることが重要である。