宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 50, 2010

一般演題 

6. 日本医科大学成田国際空港クリニックでの’09年度からのインフルエンザ(第2報)

赤沼 雅彦,村越 秀光,浅野 悦洋,岩瀬 龍之

日本医科大学成田国際空港クリニック

The second report of influenza from 2009 at Narita International Airport Clinic

Masahiko Akanuma, Hidemitsu Murakosi, Yoshihiro Asano, Tatsuyuki Iwase

Nippon Medical School Narita International Airport Clinic

’09年4月下旬米国等で新型インフルエンザが確認され,5月8日には米国帰国便の旅客から新型インフルエンザが日本でも発見された。8月より国内でも流行が拡大し,11月末の48週をピークとしてその後急速に低下し,わずかであるが現在も続いている。また, ’10年8月より旅客のインフルエンザ症例が徐々に増加している。また,国内でA香港型の流行も今シーズンは報告されている。
 【方法】 千葉県の新型インフルエンザ患者状況と空港クリニックで新型インフルエンザ患者数等の推移を比較検討した。また,空港クリニックでの通常年インフルエンザ発症状況との違いを比較検討した。
 【結果】 千葉県の患者増加は ’09年31週から始まり,空港クリニックでは4週早く27週から増加していた。11月末頃は千葉県と同様にピークがあり,年末にも第2のピークを認めた。さらに ’10年8月から一時的増加傾向を示した。また,最近4年間のインフルエンザ患者では旅客33.2%,空港勤務者55.6%,クルー4.7%,その他6.5%であったが, ’09年度以降のインフルエンザ患者では旅客50.0%,空港勤務者42.3%,クルー3.9%,その他3.8%であり,著明に旅客の割合が高かった。さらに, ’09年度の10月末の前後で比較すると,ピーク前期は旅客64.6%,空港勤務者29.3%,クルー3.3%,その他5.8%であり,後期はそれぞれ24.9%,66.0%,3.3%,5.8%であり,前期は旅客中心,後期は空港勤務者中心であった。また, ’10年度では症例数は43例と少ないが,旅客67.4%,空港勤務者25.6%,クルー7.0%であり,旅客が多かった。年代別で最近4年間と ’09年度を比較すると10歳未満でそれぞれ3.4%,4.9%,10歳代6.5%,16.9%,20歳代40.1%,41.8%,30歳代27.5%,21.8%,40歳代13.9%,8.4%,50歳代5.9%,4.4%,60歳以上2.4%,1.8%であり,今年度は若年の20歳未満が多く受診診断されていた。
 【考察】 新型の流行の中心は児童生徒であり,海外旅客や空港勤務者が中心の空港クリニックでは市中の流行世代よりは年齢構成が高く,県内の流行とずれが生じた。新型インフルエンザは潜伏期の短い輸入感染症であり,海外航空機旅客の窓口である空港の診療所を国内の流行に先んじて患者が受診していることを示唆した。2010年も7月以降徐々にインフルエンザ患者は増加傾向にあったが,昨年度の厚生労働省推定罹患患者数2千万人やワクチン接種の影響により,今年度の新型インフルエンザ流行は限定的になる可能性が考えられた。