宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 49, 2010

一般演題 

5. 大阪国際空港周辺の救急体制〜2006-2009〜

岡山 慶太

大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学
市立豊中病院

Emergency medicine around Osaka International Airport 〜2006-2009〜

Keita Okayama

Department of Clinical Gene Therapy, Graduate School of Medicine, Osaka University
Toyonaka Municipal Hospital

大阪国際空港は1時間圏内に1,500万人の人口規模を有し,年間1,500万〜2,000万人の旅客が利用,国内長距離便規制後の09年度においても関西国際空港の国内線,国際線の合計を凌ぎ旅客数で関西3空港中トップである。関西空港開港以後,国際線定期便は運行されておらず,2006年からは機材制限が開始されたため,long flight syndromeなどの疾患は稀であるが,空港が多数の航空路上に位置しており,同空港以外の発着便の緊急着陸も珍しくない。
 大阪国際空港近隣には複数の救急医療機関があり,それぞれの機能に応じて重症度別に1次から3次までの患者を受け入れている。同空港では機内より救急要請があると,航空会社のコントロールセンターなどを通じて豊中蛍池救急隊に連絡,患者の状態により各医療施設へ搬送される。空港内には50年前から診療所が開設されているが,実際には急病患者のほとんどが近隣の2次対応病院へ搬送される。当院は空港から2 km弱,救急車で5分と最も近い総合病院であり,これら救急搬送症例の半数近くが搬送されている。搬送先はほぼすべて半径10 km,救急車で10〜15分以内の範囲に存在するため,阪大病院や当院にはヘリポートもあるが,実際にはほぼ全例が救急車で搬送される。2006年から2009年までの4年間で大阪国際空港から救急搬送された症例を解析し,同空港の救急体制のあり方を考察した。
 時間帯ではビジネスユースの集中する朝7時台に小さなピークがあり,帰阪,並びに全国主要都市へ戻る旅客の増加に伴い,午後3時頃から急激に増え,8時頃ピークを迎える。年齢別では20代と50代にピークをもつ二峰性となっており,市内救急搬送全症例が高齢者に偏っているとの対照的に,現役世代に集中している。20代までは女性の方が多く,30代以降は男性が多くなり,50代を超えると明らかに男性優位となり,全体ではいずれの年においても男性が2〜3割多い。特筆すべきことは20代の女性が特に多く,原因は起立性低血圧,過換気症候群が主であった。この結果,割合で見ると50代がトップで18%,20代が60代を抑えて第2位で14%であった。症状別では,空港全体からの搬送を母集団にすると,外傷がトップで,以下,腹痛,めまい·ふらつき,胸痛,意識障害と続き,年によらず一定の傾向がみられた。機内発症のみでは,外傷はシートベルト徹底のためか乱気流などの環境要因を廃し,下位であった。疾患別では,心肺停止をはじめ,急性心筋梗塞,脳梗塞などの重症疾患も少なからずみられ,意識障害では糖尿病患者での低血糖発作が多く,呼吸困難は喘息発作が,痙攣はてんかんの発作が大部分を占めたが,心不全急性増悪,小児の熱性痙攣もみられた。
 同空港は大阪の都心に位置し,救急体制が比較的整っていると言えるが,空港周辺の医療施設は,空港施設,機内発症患者の緊急搬送に対応できるシステムを構築し,また医療従事者は空港医療の特殊性を理解し,迅速な対応ができるよう常に準備をしておく必要がある。