宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 4, 48, 2010

一般演題 

4. 乗り心地が乗り物の外部·内部視野から受ける影響

奥田 翔1,河合 俊岳2,小澤 惇一1,井須 尚紀 1

1三重大学 工学部
2株式会社本田技術研究所

Effects of external and internal view on riding comfort of vehicle

Sho Okuda1, Toshitake Kawai2, Jun-ichi Ozawa1, Naoki Isu1

1Faculty of Engineering, Mie University
2Honda R&D Co., Ltd.

本研究では,定常的振動が加わる時の乗り心地に視覚が与える影響を検討した。乗り物が直進走行する際にもピッチとロール回転の複合した複雑な非周期的振動が生じる。この時,被験者の主観的な乗り心地や揺れの強さ感覚に乗り物の外部·内部視界が与える影響を検討した。
 モーションベースにより身体振動刺激を加えると同時に,60 km/hで直進走行中の車の車外·車内視界を3Dグラフィクスにより45秒間呈示した。3D映像システムには反射型偏光方式を採用し,偏光用円筒大型スクリーン(高さ2.60 m,半径10 mの円筒の60 deg円弧の曲面)に動画像を投影し,視覚刺激を与えた。被験者の頭部がスクリーンの手前4.0 mに位置するようにロールとピッチの2軸の可動軸を持つモーションベースを設置し,描画演算用コンピュータと同期させて制御した。モーションベースに搭乗した被験者から見たスクリーンの視角は水平120 deg×垂直36 degとなった。基準となる視覚刺激(NORML)に加え,撮像カメラ(運転手の目)の位置を車内で前にシフトした視覚刺激(FRONT),後ろにシフトした視覚刺激(REAR),自車のルームミラーを外した視覚刺激(NoMIR),ルーフを外した視覚刺激(NoRF),内装と車外風景とのコントラストを高めた視覚刺激(HICON),低めた視覚刺激(LWCON)を表示した。7種類の刺激で感じる快適さ·壮快感·揺れの強さ感覚を2件法で被験者に一対比較させ,比較判断の法則(ケースV)に基づいて距離尺度化した。これまでに前庭系疾患の既往のない20歳前後の健康男女17名を被験者に用いて,総比較数1,680回の実験を行った。
 HICONの視覚刺激が与えられた時,揺れの強さは弱く感じられた。車内視界の振動が身体振動刺激と同期して明瞭に与えられるため,車体に対する身体の相対運動によって自分自身の揺れを感じる度合いが高まり,揺れを小さく感じたと考えられる。運転席を前方に置いたFRONTの視覚刺激では,車外視界が視野の多くを占める映像となるが,揺れの強さはHICONに次いで弱くなった。FRONTおよびNoRFの視覚刺激が与えられた時に,壮快感が高く感じられた。FRONTやNoRFでは,窓が広く車外風景が広範囲に見えるので開放感があり,壮快感が高まったと考えられる。FRONT,NoMIR,およびHICONの視覚刺激を与えた時に快適さが高くなった。FRONTやHICONでは揺れを弱く感じたことが寛ぎ感を高め,快適さを高くしたと考えられる。一方NoMIRでは揺れの感覚は弱くならないものの,ルームミラーに映った後方風景が振動して目をチラチラと刺激することがなくなり,寛ぎ感を増して快適さが高まったと考えられる。壮快感,快適さ,および揺れの強さ感覚の相互間の相関を検討したところ,快適さ−揺れの強さ感覚には負の相関が得られたが,壮快感−快適さ,および壮快感−揺れの強さ感覚には相関が見られなかった。揺れを強く感じると快適さは低下するが壮快感は損なわれないこと,壮快感と快適さを決定する要因は異なることが示された。
 実験の結果は,車外視界を広くすることや,車の内装を車外風景に対してコントラストの高い配色にすることが乗り心地改善に有効であることを示唆した。また,ルームミラーは快適さを阻害する原因となっており,これに替わる後方モニタリングの手段を考案することが乗り心地改善に有効であることが示唆された。