宇宙航空環境医学 Vol. 47, No. 2, 15-22, 2010

原著

体位変換による血液分布の変化が運動能力に及ぼす影響:
自転車エルゴメーター運動中の制限因子の検討

川畑 哲也1,岡部 洋興2,大平 宇志3,河野 史倫4,内藤 久士5,大平 充宣3, 4

1鹿児島県体育協会
2国士舘大学文学部
3大阪大学大学院生命機能研究科
4大阪大学大学院医学系研究科
5順天堂大学スポーツ健康科学部

Effects of Changes in the Blood Distribution Caused by Body Tilting on Exercise Capacity:Investigation of the Limiting Factor(s) during Bicycle Ergometer Exercise

Tetsuya Kawabata1, Hirooki Okabe2, Takashi Ohira3, Fuminori Kawano4, Hisashi Naito5, Yoshinobu Ohira3, 4

1Kagoshima Prefectural Amateur Sports Association
2Faculty of Letters, Kokushikan University
3Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University
4Graduate School of Medicine, Osaka University
5School of Health and Sports Science, Juntendo University

ABSTRACT
 Effects of altered blood distribution due to postural changes on the physical work capacity and the limiting factor(s) for cycling exercise were studied in healthy male subjects. Three types of exhaustive exercises were performed on a bicycle ergometer in upright, supine, or 30° head-down position. Blood pressures in the upper arm and posterior tibial artery were also measured to estimate the distribution of blood before and after exercise. Further, the responses of oxygen consumption, heart rate, and blood lactate levels to exercise were monitored. The systolic pressure in the posterior tibial artery was in the order of upright>supine>head-down position, indicating a significant hydrostatic effect. Even though the responses of blood pressures in the upper arm to postural changes were not prominent, the systolic and diastolic pressures were increased and decreased after exercise, respectively. The maximal exercise times were in the order of upright>supine>head-down position. Further, the maximal levels of oxygen consumption and heart rates were upright=supine>head-down. Blood lactate levels were significantly greater during a given submaximal intensity, when the subjects performed at 30° head-down position, relative to upright position. However, the levels obtained at the end of exercise were identical between 3 types of exercises. These results indicate that compensatory increase of blood flow to lower limbs due to elevation of heart rate was not induced during exercise in head-down position. Further, data suggest that the lowered maximal work capacity caused by decreased blood distribution was directly related to the inhibition of metabolic properties, as was indicated by the levels of blood lactate. Finally, it is suggested that the limiting factor for work performance with lowered blood distribution may be the metabolic factors, such as decreased pH caused by impaired oxygen delivery and/or accumulation of lactate or carbon dioxide, but it was not related to the inhibition of cardiac function.

(Received:16 July, 2010 Accepted:23 July, 2010)

Key words:Cycling work performance, limiting factor(s), distribution of blood


緒言
 我々人間は,日常生活の中で絶えず姿勢を変化させながら生活している。立位,座位,仰臥位といった姿勢の変化が,重力環境下では静水力学的作用によって,身体構造や諸生理機能に影響を及ぼしている14)。微小重力環境下では,下肢筋活動等による静脈のmilking actionにより体液が下肢から頭部方向へシフトし,その後全身血液量が減少すると言われている24-26)
 重力環境下において仰臥位で下肢を挙上したまま自転車エルゴメーター作業をする場合,静水力学的に下肢の血流量は減少するので,この条件下での下肢運動を可能にするような循環系機能の調節または急性適応の反応が現れるとの報告もある1)。しかし,福永ら9)によると,座位および仰臥位の2種類の体位での自転車エルゴメーター運動を疲労困憊に至るまで行った結果,毎分酸素摂取量 (VO2) および心拍数の最大値は,仰臥位姿勢時が座位姿勢時の73%および98%それぞれ低い値を示したと報告している。運動能力は血液分布に影響されることが示唆された。
 Gardnerら11)は,特別な身体トレーニングを積んでいない一般人の運動持続能力は,ヘモグロビン(Hb)濃度が減少するにつれて低下したと報告している。また,鉄欠乏性貧血の強度が進むにつれて,運動後の血中乳酸も高まり13),最大酸素摂取量(VO2 max)も低下する17)。Edgertonら7)の報告によると,強度の鉄欠乏性貧血でHbが3.5±0.4(平均±SEM)g/100 mlであった人に570 mlの全血を輸血し,Hbを約6 g/100mlに回復させると運動能力も上昇した。しかも,輸血後の被験者と同じくらいのHbを有していたコントロール群と比較してみると,Hb濃度が同じなら運動能力もほぼ同じであるという結果が得られた。その他,Daviesら5) は組織の酸素利用能 (有酸素的代謝能)は持久力を左右し,VO2 maxはHb濃度と大きな関係があると報告している。従って,血液による酸素運搬能すなわちHb濃度が低下すると,特に有酸素性作業能力やVO2が抑制されてしまうことが明らかである。
 しかし,犬を使った実験で,血流または血中酸素を低下させた場合(それらの低下が極端になると別であるが),安静時の筋における酸素摂取は変化しなかったという研究結果もある23)。また,Hbが約6 g/100 mlの鉄欠乏性貧血者に運動をさせた場合,exhaustion時の静脈血中酸素分圧はcritical levelよりはるかに高く,酸素運搬能は直接的な制限因子ではなく,むしろ赤血球による炭酸ガス除去能の低下が大きな要素であるとも報告されている19)
 このように酸素や炭酸ガス運搬を左右する赤血球の数が貧血で低下した場合の影響についての研究はかなり進んでいるが,体位変換などに伴う血液分布に変動が起きた場合,代謝または運動能力がどう影響されるか明らかではない。そこで,体位変換により下肢血液分布が変化した場合,身体運動能力がどのような影響を受け,運動を制限する要素は何であるのか追求するために本研究を実施した。方法としてはuprightおよびsupine姿勢に加え,下肢を30°挙上した姿勢(30° head-down)で,自転車エルゴメーター運動を実施した。

方法
 本研究は,World Medical Association Declaration of Helsinki (Ethical Principles for Medical Research Involving Human Subjects)の規定に沿って実施した。また,鹿屋体育大学研究倫理委員会の承認も得た。さらに,被験者候補者には,あらかじめ本実験の目的や各体位での自転車エルゴメーター運動および手指先からの採血等の危険性を説明した。実験の途中であっても本人の意思で被験者を止めることができるという条件で,同意書を得た21〜22歳の体育専攻の健康な男子大学生5名を被験者とした。
 被験者の体重および身長の平均値と標準誤差は72.2±6.8 kgおよび172.8±1.3 cmであった。彼らは,3種類の体位(upright,supine,30° head-down)で,exhaustionに至るまで自転車エルゴメーター(モナーク社:Model 868)運動を行った (Fig. 1A-C)。Upright,30° head-down,supine positionの順で実験を行い,トレーニング効果や疲労の影響を除去するためにそれぞれの運動には1週間以上の間隔をおいた。Supineおよび30° head-downの体位では,運動中,臀部が自転車のサドルから離れないように体幹をベルトで固定した。また,ベルトで上肢を支えハンドルを握った腕に力が入らないようにした。
 自転車エルゴメーターを倒すと本来利用されているおもりを利用した負荷の設定は不可能である。しかし3種類の体位とも同一の漸増負荷で行う必要があるので,自転車エルゴメーターのおもりをあらかじめ除去し,運動負荷は負荷調整用ハンドルの回転数(ベルトの締め具合い)により設定した。負荷は,0ワット(W)から始め,Table 1に示すように運動開始後1分から2分間おきに漸増した。仕事率(ワット)は,


Fig.1  Pictures showing 3 types of exhaustive bicycle exercises.


Table 1 Exercise protocol
Time
(min)
0-1 1-3 3-5 5-7 7-9 9-11 11-13 13-15 15-17
Work
load
(kp)
0 1.1 2.0 2.5 3.0 4.0 4.5 5.5 6.0
Work
rate
(W)
0 53.9 98.0 122.5 147.0 196.0 220.5 269.5 294.0



仕事率(W)= 6(m)×9.8(N)kp×50(rpm)
60(min)


より算出した。ただし,6 mはペダルが1回転したときの車輪の移動距離,kpはキロポンド,50 rpmは毎分のペダル回転数を示す。
 生体負担度判定の一指標としては,rating of perceived extension(RPE)20)を用いた。被験者は各体位での運動前にそれぞれの体位での安静を10分間保ったが,安静8-10分,および運動中は2分おきに最後の1分間ダグラスバッグに呼気ガスを採集した。ただしRPE 17以上からexhaustionに至るまでは30秒の連続採気を行った。採集後直ちにパーキンエルマー社製マルチガス分析計により,呼気中のO2とCO2濃度を測定した。また,ガスメーター(品川精器KK:乾式ガスメーターNDS-2A-T)により呼気ガス量およびガス温を測定した後,毎分換気量およびVO2を算出した。各体位での運動終了後30分間は運動中と同じ姿勢で回復させた。
心拍数は,安静時および運動開始後1分おきに,日本光電社製のLife Scope 6で胸部双極誘導によりモニターした。また安静時,運動時(2分おき),exhaustion直後に温浴に浸しておいた指尖をユニレッターで窄刺し,血液採取用キャピラリー(ヘパリン処理済み)に採血し,直ちにYSI社製ラクテートグルコースアナライザー23Aにより,乳酸を測定した。各サンプルをそれぞれ2回ずつ測り,その平均値をデータとした。
 体位変換に伴い顕著な体液シフトが誘発されれば,上肢と下肢における血液分布には互いに逆の変化が起こるはずである。そこで,体位変換に伴う血液のシフト度を推定するために,下肢のみならず上肢の血圧も測定した。血圧は安静時およびexhaustion直後に上腕動脈と後脛骨動脈の2ヶ所で測定した。上腕動脈の収縮期および拡張期血圧は,水銀血圧計による聴診法によって,後脛骨動脈の収縮期血圧は超音波ドップラー法(Huntleigh社製,Mini Dopplex D500)で測定した。各体位での安静時に血圧測定に最適な部位を特定し,運動後の測定も同一部位で実施した。さらに,各被験者の心臓から足に巻いたマンシェットの中央部までの高さを計り,静水圧の影響を算出した。仰臥位で実測された血圧値を基準にして,座位および30° head-downでの静水圧による値を求め,実際に測定した値と比較した。なお,血圧の変化が血液量の変化とどういう関係にあるかを調べるために,ある被験者のupright,supine,および30° head-down positionでの下肢血液量をMakieら15)の方法(electrical impedance measurement)で測定し,体位変換に伴う後脛骨動脈収縮期血圧の変化と比較した。この方法の妥当性は,須藤ら22) によっても報告されている。さらに,ジェット機の弾道飛行による重力レベルの急激な変化に伴う体液シフトの測定も可能である18)
 全てのデータは,mean±SEMで示してある。統計的有意性のチェックは,two-way ANOVAおよびScheffe’s post hoc testによって行い,p<0.05を有意とした。

結果
 3種類の体位での安静時およびexhaustion直後の血圧はFig. 2および3に示される。Fig. 2は後脛骨動脈の収縮期血圧を運動前安静時とexhaustion直後に分け,3種類の体位間で比較したものであり,各群に統計的に有意な差が見られた。運動前の30° head-downおよびsupine positionではupright positionに比べて,それぞれ37および57%低値であった(p<0.05)。30° Head-down positionの場合,supine positionよりも更に低かった(−33%, p<0.05)。Exhaustion直後のupright positionにおける血圧は,運動前よりも高値であった(+18%, p<0.05)。Supineおよびhead-down positionにおける血圧には,運動の影響は見られなかったが,これらの血圧は,upright positionに比べて,46および57%低かった(p<0.05)。Head-down時の血圧は,supine positionよりも低い傾向にあったが,有意ではなかった。



Fig.2  Systolic pressure in the posterior tibial artery. Mean±SEM. , †, and §:p<0.05 vs. pre-exercise (pre-ex, upright, and supine position, respectively.



 上腕動脈血圧には,運動前安静時および運動直後においても収縮期(Fig. 3A)および拡張期(Fig. 3B)ともに体位による有意な変化はなかった。しかしながら各体位において運動前後で比較してみると,運動による上腕動脈収縮期血圧は上昇し,拡張期血圧は逆に低下した(p<0.05)。各体位における運動による収縮期血圧の上昇は,upright,supineおよびhead-down positionで,それぞれ23,37,36%であった。また,各体位における拡張期血圧の低過度は,それぞれ33,26,43%であった。
 3種類の体位における運動時間と心拍数の関係はFig. 4に示してある。Exhaustionに至るまでの時間は,30° head-down positionでは,uprightおよびsupine positionに対し低値であった(p<0.05)。Upright positionでの運動時間はsupine positionの場合より長い傾向にあったが,統計的有意性は認められなかった。Submaximal運動中の心拍数は,一般的にupright positionの場合が他の体位に比較して低かったが,有意ではなかった。しかし,30° head-down運動におけるexhaustion時の最高心拍数は,他の体位に比べ有意に低値であった(p<0.05)。Supineおよびupright positionでの運動における最高心拍数は,ほぼ同レベルであった。
 運動に伴うVO2の変化はFig. 5に示してある。VO2 maxは30° head-downでは,upright およびsupine positionに比較して有意に低かった(−25および−21%,p<0.05)。Upright およびsupine position における値はほぼ同値であった。VO2 submaxは一般にupright position運動時が低い傾向にあったが,いずれの時点でも有意ではなかった。換気量および炭酸ガス排出量にも,同じような反応が見られた(data not shown)。安静時および運動中のVO2と心拍数の関係にはいずれの体位においても統計的に有意な高い正の相関があった(r=0.99, p<0.05)。 血中乳酸値の変動は,運動開始後5分および7分において,uprightに比べ30° head-downでは有意に高値であった(Fig. 6,p<0.05)。しかし,exhaustion時の血中乳酸濃度 (mM)には,upright(7.3±0.5),supine(8.7±0.3),それに30° head-down position(7.7±0.3)間に統計的有意差は見られなかった。



Fig.3  Systolic (A) and diastolic blood pressure (B) measured in the upper arm. Mean±SEM. :p<0.05 vs. pre-exercise (pre-ex).



Fig.4  Responses of heart rate to exercise. The maximal heart rate and exercise time are also shown. Mean±SEM. † and §:p<0.05 in the maximal heart rate and exercise time vs. 30° head-down position, respectively.



Fig.5  Responses of oxygen consumption to exercise. The maximal oxygen consumption and exercise time are also shown. Mean±SEM. † and §:p<0.05 in the maximal oxygen consumption and exercise time vs. 30° head-down position, respectively.




Fig.6  Responses of blood lactate to exercise. The maximal lactate and exercise time are also shown. Mean±SEM. :p<0.05 vs. upright position. §:p<0.05 in the exercise time vs. 30° head-down position.



 体位変換に伴う下肢における血流量および収縮期血圧の関係には,有意な正の相関があった(r=0.99, p<0.05, Fig. 7)。Upright positionで血液が下肢に多く分布している場合は,収縮期血圧も血流量も上昇し,逆にhead-down positionで下肢における血液分布が減少した場合は,収縮期血圧も血流量も減少するという結果が得られた。さらに,後脛骨動脈収縮期血圧の実測値と心臓から血圧測定用のマンシェット中央部までの高さにより推定した静水圧を考慮して推定した値にも,有意な正の相関があった(r=0.95, p<0.05, Fig. 8)。

考察
 体位変換によって血液分布が変化することは,これまでいくつか報告されている1,10)。例えば藤田ら10)は,tilting tableを用いて体位変換させた場合,前腕の血流量は40° head-up<supine<40° head-down姿勢の順であったと報告している。このような体位変換による血流量の変化は静水力学的作用によって起こる2)



Fig.7  Relationship between the systolic pressure in posterior tibial artery and changes of blood flow in lower limb following the body tilting.




Fig.8  Relationship between the determined systolic pressure in the posterior tibial artery and the pressure estimated by considering the hydrostatic pressure.


本研究では,下肢の血液分布の変化を推定するために超音波ドップラー法によって測定した後脛骨動脈収縮期血圧とelectrical impedance measurement15)で測定したupright,supineおよび30° head-down positionでの血液量間に高い正の相関があり(Fig. 7),下肢動脈における収縮期血圧は血液量を反映することがわかった。したがって,本研究で用いた下肢動脈収縮期血圧値は,体位変換に伴う循環動態を判定する一指標になり得ることが示唆された。
血圧に対する静水力学的作用を考慮するために,それぞれの体位時における各被験者の心臓から血圧測定用のマンシェット中央部までの高さを測り,supine positionを基準にしてuprightおよび30° head-down positionでの後脛骨動脈収縮期血圧を算出した。算出した血圧値と実際に測定した値との関係をみると正の高い相関を示すことが確認された(r=0.95, p<0.05, Fig. 8)。Hargens12) は,キリンを使った実験で下肢における血圧は心臓からの距離が長くなるにつれて上昇すると報告している。以上のことから下肢における収縮期血圧の変化には,静水力学的作用が大きく影響していると考えられる。ところが,上肢における血圧には,体位変換による反応は見られなかった。Head-downおよびsupine positionでも,手で自転車のハンドルを握った姿勢で測定したので,体幹部より上に位置していたことが原因である可能性もあろう。ところが,運動に対する反応には,上肢および下肢間に顕著な違いが見られた(Fig. 2 vs. 3)。Upright positionでの運動では,下肢および上肢における収縮期血圧はともに運動後が高かった。しかし,他の体位での運動に対する反応は,下肢および上肢で全く異なったものであったが,その原因は不明である。
30° Head-downpositionでは静水力学的作用によって心臓への静脈環流が促進され,1回拍出量が増加する2,4)ので,安静時の心拍数はむしろ低下してもよいと思われる。ところが,ある一定強度でのsubmaximal運動中における心拍数の増加パターンは,3姿勢でほぼ似たようなものであった(Fig. 4)。3姿勢とも同じような脚運動をしたので,例えhead-up運動であっても,脚筋によるmilking actionにより,静脈還流量はsupineおよびhead-down positionの場合とほぼ同レベルに保たれたものと推察される。しかし,30° head-down時の最高心拍数は他の体位時に比べて低く(p<0.05),心機能が十分に働かないうちにexhaustionに至ったと考えられる。 Bevegardら2-4),湯浅ら27)およびDiazら6)によって報告されているように,3種類の体位間での運動時VO2と心拍数の関係には有意な差は見られなかった。30° Head-downによって下肢血液量が減少し,maximal work performanceは抑制されたにもかかわらず,心拍数増加による代償は行われず,朝比奈,1)によって報告されている急性の適応反応は,本研究においては確認できなかった。しかし,下肢血液量減少によってVO2 maxが低下することは他の研究結果,8,6,21,26) と一致する。
 下肢の血液量減少によって,submaximal運動中の血中乳酸は30° head-down positionではupright positionに比べ有意に高い増加を示した(Fig. 6)。すなわち心拍数の増加による血流促進が十分でなく,結果として乳酸産生の高進,または除去能の低下がもたらされたといえる。しかし,運動時間が短いにもかかわらず,exhaustion時の乳酸値はupright positionにおける値と変わらず,活動筋の血流不足が早期に筋代謝の抑制を招いてしまったものと推察される。すなわち,血流が低下した状態でのwork performanceの制限因子は心機能ではなく,活動筋における代謝抑制であると考えられる。その原因としては酸素不足または乳酸や炭酸ガスなどによるpHの低下などが推察される。
Supine positionにおける運動前後脛骨動脈収縮期血圧はupright positionより有意に低く,下肢における血液分布は少なかったことが示唆された。また,exhaustionに達するまでの運動時間は,有意ではないもののupright positionの方が長い傾向にあった。ところが,最高心拍数,最大酸素摂取量,および運動後血中乳酸値にはuprightおよびsupine position間に差が認められなかった。その詳細な機構は不明であるが,(超音波ドップラー法では測定不可能であるため推測の域を抜けないが)安静時の血液分布は異なっても,運動中は両者間の差が縮小されたことも原因の一つである可能性もあろう。

まとめ
 体位変換によって血液分布が変化することは,これまでいくつか報告されている1,10)。例えば藤田ら10)は,tilting tableを用いて体位変換させた場合,前腕の血流量は40° he体位変換により下肢血液分布が変化した場合,身体運動能力はどう影響されるか,またその制限因子は何なのか検討した。その結果,後脛骨動脈収縮期血圧は,upright>supine>30° head-down positionの順に高く,下肢では静水力学的作用によって血圧が変動することがわかった。下肢の血液量が減少した場合,心拍数の増加による血流促進が十分でなく,結果として乳酸産生の亢進,または除去能の低下がもたらされたと推測される。運動時間が短いにもかかわらず,30° head-downにおけるexhaustion時の乳酸値はupright positionにおける値と変わらず,活動筋の血流不足が早期に筋代謝の抑制を招いてしまったものと推察される。血流が低下した状態でのwork performanceの制限因子は心機能ではなく,活動筋における代謝抑制であると考えられる。

謝辞
 本研究は,日本学術振興会科学研究費(基盤研究・S, 19100009)によって実施した。作図等にご協力いただいた金谷ちはる様にも,お礼申し上げます。


文 献

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